Uber CacheFront設計解説:毎秒1.5億リクエストを支えるキャッシュアーキテクチャの実装パターン

AI,DB,SES,インフラ,バックエンド

お疲れ様です!IT業界で働くアライグマです!

「キャッシュを入れたのにパフォーマンスが改善しない」「キャッシュヒット率が思ったより低い」「キャッシュの整合性管理が複雑すぎる」

こうした悩みを抱えているエンジニアは多いのではないでしょうか。
私自身、PjMとして関わったプロジェクトで、Redisを導入したものの期待したほどの効果が出ず、設計を見直した経験があります。

そんな中、Uberが公開したCacheFrontというキャッシュアーキテクチャの改善事例が話題になっています。
毎秒1.5億リクエストという超大規模環境で、キャッシュヒット率を大幅に向上させた設計思想は、規模を問わず参考になるポイントが多いです。

この記事では、CacheFrontの設計思想と実装パターンを解説し、自社のキャッシュ設計に活かせる知見を整理します。

CacheFrontとは何か:Uberが直面した課題と解決策

CacheFrontは、Uberが2024年に公開したキャッシュ最適化アーキテクチャです。
従来のキャッシュ設計では対応しきれなかった課題を解決するために開発されました。

Uberが抱えていたキャッシュの課題

Uberのシステムは、配車リクエスト、料金計算、ドライバーマッチングなど、リアルタイム性が求められる処理を大量に抱えています。
従来のキャッシュ構成では、以下のような問題が発生していました。

  • キャッシュミス時のレイテンシ増大:バックエンドDBへのフォールバックが頻発し、P99レイテンシが悪化
  • キャッシュの整合性管理の複雑化:複数サービス間でのキャッシュ無効化が困難
  • ホットスポット問題:特定のキーに対するアクセス集中でキャッシュノードが過負荷
  • コスト効率の低下:キャッシュヒット率が低いまま、インフラコストだけが増大

これらの課題に対して、CacheFrontは多層キャッシュインテリジェントなルーティングを組み合わせたアプローチで解決を図りました。

CacheFrontの基本アーキテクチャ

CacheFrontは、以下の3層構造で設計されています。

  • L1キャッシュ(インプロセス):各サービスインスタンス内のローカルキャッシュ。最も高速だが容量は限定的
  • L2キャッシュ(リージョナル):同一リージョン内の共有キャッシュクラスタ。Redis Clusterベース
  • L3キャッシュ(グローバル):リージョン間で共有される永続化層。整合性を重視

この多層構造により、アクセス頻度の高いデータはL1で即座に返却し、L2・L3へのアクセスを最小化しています。
私のチームでも、似たような多層キャッシュを導入した際、L1ヒット率を70%以上に保つことで、全体のレイテンシを40%削減できた経験があります。

分散システムの設計パターンについては、AWSアンチパターン完全ガイド:やってはいけない設計と運用の落とし穴を回避する実践的アプローチも参考になります。

キャッシュ設計の基礎を学ぶなら分散システムデザインパターン ―コンテナを使ったスケーラブルなサービスの設計が体系的にまとめられていておすすめです。

サーバーラックとデータセンターの様子

CacheFrontの設計思想:なぜ毎秒1.5億リクエストを捌けるのか

CacheFrontが高いスループットを実現できる理由は、単なるキャッシュ層の追加ではなく、アクセスパターンに基づいたインテリジェントなルーティングにあります。

ケーススタディ:キャッシュヒット率65%から95%への改善

Uberの公開情報によると、CacheFront導入前後で以下の改善が報告されています。

  • 状況(Before):従来のRedis単層キャッシュでヒット率65%、P99レイテンシ120ms
  • 行動(Action):CacheFrontの多層構造を導入し、L1キャッシュにホットデータを優先配置。TTLを動的に調整するロジックを追加
  • 結果(After):ヒット率95%、P99レイテンシ25msに改善。バックエンドDBへのリクエストが80%削減

インテリジェントルーティングの仕組み

CacheFrontの特徴的な機能として、アクセス頻度に基づく動的なキャッシュ配置があります。

  • ホットデータの自動昇格:アクセス頻度が閾値を超えたキーは自動的にL1キャッシュに昇格
  • コールドデータの降格:一定期間アクセスがないキーはL2・L3に降格し、L1のメモリを解放
  • プリフェッチ機能:アクセスパターンを学習し、次にアクセスされそうなデータを事前にL1へロード

この仕組みにより、限られたL1キャッシュ容量を最大限に活用できます。
サーバーレスアーキテクチャとの組み合わせについては、サーバーレスでステートフルなワークフローを構築する:Lambda Durable Functionsの設計と実装も参考になります。

アーキテクチャ設計の原則を深く理解するにはソフトウェアアーキテクチャの基礎が役立ちます。

以下のグラフは、CacheFront導入前後のキャッシュヒット率の変化を示しています。
多層キャッシュとインテリジェントルーティングの組み合わせが、劇的な改善をもたらしていることがわかります。

CacheFrontによるキャッシュヒット率の改善効果

自社システムへの適用:CacheFrontパターンの実装ステップ

Uberほどの規模でなくても、CacheFrontの設計思想は自社システムに適用できます。
ここでは、段階的な導入ステップを解説します。

ステップ1:現状のキャッシュ構成を可視化する

まず、現在のキャッシュ構成とパフォーマンスを把握します。

# Redisのキャッシュヒット率を確認
redis-cli INFO stats | grep -E "keyspace_hits|keyspace_misses"

# ヒット率の計算
# hit_rate = keyspace_hits / (keyspace_hits + keyspace_misses) * 100

この数値が70%を下回っている場合、キャッシュ設計の見直しが必要です。
私のプロジェクトでは、この確認を週次で行い、ヒット率の推移をモニタリングしています。

ステップ2:L1キャッシュ層を追加する

アプリケーション内にインプロセスキャッシュを追加します。
JavaであればCaffeine、GoであればBigCacheRistrettoが選択肢になります。

package main

import (
    "time"
    "github.com/dgraph-io/ristretto"
)

func NewL1Cache() (*ristretto.Cache, error) {
    return ristretto.NewCache(&ristretto.Config{
        NumCounters: 1e7,     // 1000万キーを追跡
        MaxCost:     1 << 30, // 1GBのメモリ上限
        BufferItems: 64,      // バッファサイズ
    })
}

func GetWithL1(l1 *ristretto.Cache, redisClient *redis.Client, key string) (string, error) {
    // L1キャッシュを先に確認
    if val, found := l1.Get(key); found {
        return val.(string), nil
    }
    
    // L1ミス時はRedis(L2)から取得
    val, err := redisClient.Get(ctx, key).Result()
    if err != nil {
        return "", err
    }
    
    // L1に昇格
    l1.Set(key, val, 1)
    return val, nil
}

ステップ3:TTLの動的調整を実装する

アクセス頻度に応じてTTLを動的に調整することで、ホットデータをより長くキャッシュに保持できます。

func CalculateDynamicTTL(accessCount int, baseTTL time.Duration) time.Duration {
    // アクセス頻度に応じてTTLを延長
    if accessCount > 1000 {
        return baseTTL * 4 // 超ホットデータは4倍
    } else if accessCount > 100 {
        return baseTTL * 2 // ホットデータは2倍
    }
    return baseTTL
}

データ基盤の設計については、Snowflake vs Databricks徹底比較:コンピュートレイヤーとストレージ設計の違いを理解するも参考になります。

実装パターンを体系的に学ぶならClean Architecture 達人に学ぶソフトウェアの構造と設計がおすすめです。

チームでの開発作業の様子

運用時の注意点:キャッシュ整合性とモニタリング

多層キャッシュを導入すると、整合性管理とモニタリングの重要性が増します。
ここでは、運用時に押さえておくべきポイントを解説します。

キャッシュ整合性の管理パターン

多層キャッシュでは、各層のデータが不整合になるリスクがあります。
CacheFrontでは、以下のパターンで整合性を管理しています。

  • Write-Through:書き込み時に全層を同時に更新。整合性は高いが、書き込みレイテンシが増加
  • Write-Behind:L1に書き込み後、非同期でL2・L3を更新。レイテンシは低いが、障害時にデータロスのリスク
  • Cache-Aside with Invalidation:書き込み時にキャッシュを無効化し、次回読み込み時に再取得。シンプルだが、キャッシュミスが発生

私のプロジェクトでは、データの重要度に応じてパターンを使い分けています。
決済関連データはWrite-Through、ユーザープロファイルはCache-Aside with Invalidationといった具合です。

モニタリングで見るべきメトリクス

キャッシュの健全性を把握するために、以下のメトリクスを監視します。

  • 各層のヒット率:L1、L2、L3それぞれのヒット率を個別に追跡
  • レイテンシ分布:P50、P95、P99のレイテンシを層ごとに計測
  • メモリ使用率:各層のメモリ使用率と、エビクション(追い出し)の頻度
  • ホットキー検出:特定のキーへのアクセス集中を検出し、アラートを発報

Prometheusを使ったメトリクス収集の例を示します。

# prometheus.yml
scrape_configs:
  - job_name: 'cache-metrics'
    static_configs:
      - targets: ['cache-exporter:9121']
    metrics_path: /metrics
    scrape_interval: 15s

エッジでのキャッシュ活用については、Cloudflare Workerで構築するTelegramボット:サーバーレスメッセージング基盤の設計と実装も参考になります。

モニタリング基盤の構築にはPrometheus実践ガイド クラウドネイティブな監視システムの構築が実践的で役立ちます。

モニタリングダッシュボードの画面

まとめ

この記事では、Uberが開発したCacheFrontの設計思想と実装パターンを解説しました。

  • 多層キャッシュ構造:L1(インプロセス)、L2(リージョナル)、L3(グローバル)の3層でアクセスパターンに最適化
  • インテリジェントルーティング:アクセス頻度に基づく動的なキャッシュ配置で、ヒット率を65%から95%に改善
  • 段階的な導入ステップ:現状可視化→L1追加→TTL動的調整の順で、自社システムにも適用可能
  • 運用時の注意点:整合性パターンの選択と、層ごとのメトリクス監視が重要

毎秒1.5億リクエストという規模は極端ですが、CacheFrontの設計思想は規模を問わず参考になります。
まずは現状のキャッシュヒット率を確認し、70%を下回っているようであれば、L1キャッシュの追加から始めてみてください。

小さな改善の積み重ねが、システム全体のパフォーマンスを大きく向上させます。

厳しめIT女子 アラ美による解説ショート動画はこちら