SIerから自社開発企業に転職したエンジニアが最初の90日で信頼を勝ち取る技術キャッチアップ戦略

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先日、私のチームに30代前半のバックエンドエンジニア・田中さん(仮名)が入社しました。
田中さんは大手SIerで5年間、金融系システムの開発・保守を担当してきた方です。
技術力は申し分ないのですが、入社初日に「Git運用が全然違う」「プルリクエストの粒度がわからない」「CI/CDが回っているけど何をしているのかわからない」と、かなり戸惑っている様子でした。

「SIerで5年やってきたのに、自社開発企業に来たら新人みたいな気持ちになってしまった」「周りのスピードについていけるか不安」――こうした声は、SIerから自社開発企業に転職してきたエンジニアからよく聞きます。

ただ、田中さんは入社90日後にはチーム内で「この人に聞けば大丈夫」と言われるポジションを確立していました。
本記事では、田中さんの事例も踏まえつつ、SIerから自社開発企業に転職したエンジニアが最初の90日で信頼を勝ち取るための技術キャッチアップ戦略を整理していきます。

SIerと自社開発企業のギャップを正しく認識する

まずは、SIerと自社開発企業の間にある「見えにくいギャップ」を整理しておきます。
ここを曖昧にしたまま「とにかく頑張る」と走り出してしまうと、努力の方向がズレて空回りするリスクがあります。

開発プロセスの違い

SIerでは、ウォーターフォール型の開発プロセスが主流です。
要件定義→基本設計→詳細設計→実装→テスト→リリースという流れが明確に分かれており、各フェーズで成果物を納品するスタイルが一般的です。

一方、自社開発企業ではアジャイル開発やスクラムが主流です。
2週間程度のスプリントで機能をリリースし、ユーザーフィードバックを受けて改善を繰り返します。
「完璧な設計書を書いてから実装する」のではなく、「動くものを早く出して、フィードバックを受けて改善する」という考え方が根底にあります。

SIerからWeb系企業へ転職するための技術スタック習得とポートフォリオ戦略でも触れていますが、このプロセスの違いを理解しないまま転職すると、「なぜこんなに早くリリースするのか」「なぜ設計書がないのか」と戸惑うことになります。

技術スタックの違い

SIerでは、Java・Oracle・オンプレミスサーバーといった「枯れた技術」が中心です。
安定性と保守性が重視され、新しい技術を積極的に採用することは少ない傾向があります。

自社開発企業では、Go・TypeScript・Kubernetes・AWSといったモダンな技術スタックが使われることが多いです。
また、技術選定の自由度が高く、チームやプロダクトに合わせて最適な技術を選ぶ文化があります。

田中さんも「Javaは得意だけど、TypeScriptは触ったことがない」「AWSは名前だけ知っている」という状態でした。
ただ、転職と副業のかけ算でも語られているように、技術スタックの違いは「学べば埋まるギャップ」です。
問題は、何を優先して学ぶかの判断です。

コミュニケーションスタイルの違い

SIerでは、メールや正式な会議を通じたフォーマルなコミュニケーションが中心です。
「報告・連絡・相談」が重視され、上長への確認を経てから行動するスタイルが一般的です。

自社開発企業では、Slackやチャットツールを使ったカジュアルで即時的なコミュニケーションが主流です。
「まず動いてみて、問題があれば修正する」という文化があり、事前の承認よりも事後の共有が重視されることもあります。

この違いに戸惑うSIer出身者は多いですが、逆に言えば「質問しやすい」「フィードバックをもらいやすい」環境でもあります。

Two adults engaging in collaborative work at a computer in a modern office setting.

90日間のキャッチアップロードマップ

ここからは、SIerから自社開発企業に転職したエンジニアが最初の90日間で何を優先して学ぶべきかを整理します。
田中さんの事例をベースに、私がPjMとして見てきた「うまくいくパターン」をフレームワーク化しました。

Phase 1:最初の30日(観察と基礎固め)

最初の30日は、「郷に入っては郷に従え」の精神で観察に徹する期間です。
自分のやり方を押し付けず、チームの開発フローやコミュニケーションスタイルを観察します。

具体的には、以下のことに集中します。

  • Git/GitHub運用の理解:ブランチ戦略、プルリクエストの粒度、レビューの流れを把握する
  • CI/CDパイプラインの理解:何がどのタイミングで自動実行されるかを把握する
  • ドメイン知識のインプット:プロダクトの仕様書やWikiを読み込み、ビジネスロジックを理解する
  • チームメンバーとの1on1:誰が何を担当しているか、困ったときに誰に聞けばいいかを把握する

田中さんは、最初の2週間で「とにかくプルリクエストを見まくる」ことに集中しました。
他のメンバーがどんな粒度でコミットしているか、レビューでどんな指摘が入っているかを観察することで、チームの「暗黙のルール」を吸収していきました。

受託開発から自社サービス企業への転職ロードマップ:事業会社エンジニアとして活躍するためのスキル転換戦略でも触れていますが、最初の30日で「この人は学ぶ姿勢がある」と思ってもらえるかどうかが、その後の信頼構築に大きく影響します。

Phase 2:30〜60日(小さな成果を積み上げる)

次の30日は、小さなタスクで成果を出す期間です。
いきなり大きな機能開発に手を出すのではなく、バグ修正やリファクタリング、ドキュメント整備など、リスクが低く、かつチームに貢献できるタスクから始めます。

田中さんは、この期間に以下のことを意識していました。

  • 「完璧」より「早く出す」を優先:SIer時代は「完璧な状態でレビューに出す」が当たり前だったが、自社開発では「60%の状態でもいいからレビューに出して、フィードバックをもらう」スタイルに切り替えた
  • レビューコメントを素直に受け入れる:指摘を「ダメ出し」ではなく「学びの機会」と捉え、同じ指摘を2回受けないように意識した
  • 質問は「調べた上で」する:「これ何ですか?」ではなく、「ここまで調べたのですが、この理解で合っていますか?」という形で質問する

この期間で重要なのは、エッセンシャル思考でも語られている「本質的なことに集中する」という考え方です。
すべてを完璧にしようとするのではなく、「今、チームにとって一番価値があることは何か」を見極めて行動することが大切です。

Phase 3:60〜90日(信頼を確立する)

最後の30日は、「この人に任せて大丈夫」と思ってもらう期間です。
小さな成果を積み上げてきた信頼をベースに、少し大きめのタスクや、チームの課題解決に貢献する動きを見せます。

田中さんは、この期間に以下のことに取り組みました。

  • ドキュメント整備の提案:「新しく入った人が困りそうなポイント」をまとめたオンボーディングドキュメントを作成し、チームに共有した
  • レビュアーとしての参加:他のメンバーのプルリクエストにレビューコメントを入れ始めた(最初は質問形式で)
  • 技術的な改善提案:SIer時代の経験を活かして、テスト自動化の改善案を提案した

特に「ドキュメント整備」は、SIer出身者の強みを活かせるポイントです。
自社開発企業では「動くコード」が優先されがちで、ドキュメントが後回しになることが多いです。
SIer時代に培った「ドキュメントを書く習慣」は、チームにとって大きな価値になります。

以下のグラフは、田中さんが90日間で優先的にキャッチアップした技術領域とその優先度を示しています。

SIerから自社開発企業への転職後90日間の技術キャッチアップ優先度

ケーススタディ:田中さんの90日間

ここでは、田中さんの90日間をより具体的に振り返ります。
読者が同じ結果を再現できる具体性を意識して、状況・行動・結果を整理します。

状況(Before)

田中さんは、大手SIerで5年間、金融系システムの開発・保守を担当していました。
主な技術スタックはJava(Spring Boot)、Oracle、オンプレミスサーバーです。
Git/GitHubは「名前は知っているが、実務で使ったことがない」状態でした。
CI/CDは「聞いたことはあるが、何をしているかわからない」レベルでした。

転職先の自社開発企業では、Go・TypeScript・PostgreSQL・AWS・GitHub Actions・Kubernetesという技術スタックが使われていました。
チームはスクラム開発で、2週間スプリントでリリースを繰り返すスタイルです。

行動(Action)

田中さんは、以下のアクションを90日間で実行しました。

最初の30日

  • 毎日30分、他のメンバーのプルリクエストを読む時間を確保
  • Git/GitHubの基本操作を復習(ブランチ作成、コミット、プルリクエスト、マージ)
  • GitHub Actionsのワークフローファイルを読み、何が自動実行されているかを把握
  • プロダクトのWikiを全ページ読破し、ドメイン知識をインプット

30〜60日

  • バグ修正タスクを5件完了(すべて1日以内にマージ)
  • リファクタリングタスクを3件完了(コードの可読性向上)
  • レビューコメントで指摘された内容をNotionにまとめ、同じミスを繰り返さないようにチェックリスト化

60〜90日

  • 新規機能開発タスクを1件担当(設計からリリースまで)
  • オンボーディングドキュメントを作成し、チームに共有
  • テスト自動化の改善案を提案し、チームで採用

結果(After)

90日後、田中さんは以下の成果を出していました。

  • プルリクエストのマージ数:23件(チーム平均の1.5倍)
  • レビューコメント数:45件(質問形式から始めて、徐々に指摘形式へ)
  • ドキュメント作成:オンボーディングドキュメント1本、技術仕様書2本
  • チーム内評価:「困ったときに田中さんに聞けば大丈夫」というポジションを確立

田中さん自身も「最初の1ヶ月は本当に辛かったけど、2ヶ月目から少しずつ楽しくなってきた」と振り返っています。
このような90日間の取り組みを支えるのは、チーム・ジャーニーでも語られている「チームとして成長する」という視点です。
個人の努力だけでなく、チームの文化に溶け込みながら成長していくことが、長期的な信頼構築につながります。

SES脱出のためのキャリア戦略:自社開発企業への転職を成功させる準備と行動計画でも触れていますが、自社開発企業への転職は「入社がゴール」ではなく、「入社後の90日間でどれだけ信頼を勝ち取れるか」が本当の勝負です。

A diverse group of young professionals collaborating around a laptop in a modern office setting. Perfect for business or tech concepts.

習慣化のステップ:日々の行動に落とし込む

ここでは、90日間のキャッチアップを「習慣」として定着させるためのステップを整理します。
フレームワークを知っているだけでは意味がなく、日々の行動に落とし込むことが重要です。

毎日やること

  • 朝15分:プルリクエストを1〜2件読む(他のメンバーのコードスタイルを吸収)
  • 夕方15分:今日学んだことをNotionにメモ(同じミスを繰り返さないためのチェックリスト化)
  • 退勤前5分:明日やることを1つだけ決める(翌朝のスタートダッシュを切りやすくする)

週次でやること

  • 週1回:1on1でフィードバックをもらう(上長やメンターに「今週どうだったか」を聞く)
  • 週1回:技術ブログや公式ドキュメントを1本読む(使っている技術の理解を深める)

月次でやること

  • 月1回:自分のプルリクエストを振り返る(どんな指摘が多かったか、改善できたかを確認)
  • 月1回:チームの課題を1つ見つけて改善提案する(ドキュメント整備、テスト改善など)

ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣でも語られているように、小さな習慣を積み重ねることで、大きな変化が生まれます
「毎日30分勉強する」よりも「毎日15分だけプルリクエストを読む」のほうが続けやすく、結果的に大きな成果につながります。

バーンアウトを防ぐエンジニアの働き方設計:休職リスクを下げるセルフマネジメント戦略でも触れていますが、無理をして燃え尽きてしまっては元も子もありません。
持続可能なペースで、着実にキャッチアップしていくことが大切です。

Diverse team collaborating in a meeting, showcasing teamwork and cooperation in a modern workplace.

おすすめエージェント・サービス

ここでは、SIerから自社開発企業への転職を考えているエンジニアに向けて、おすすめの転職エージェント・サービスを紹介します。
読者の状況に応じて、どのサービスが向いているかを整理しました。

自社開発企業への転職に強いエージェント

SIerから自社開発企業への転職を目指す場合、「自社開発企業の求人を多く扱っているエージェント」を選ぶことが重要です。
一般的な転職エージェントでは、SES案件や受託開発案件が多く、自社開発企業の求人が少ないことがあります。

ITエンジニアのための転職エージェント【TechClipsエージェント】は、レガシーSIerやSESから自社開発企業へのキャリアチェンジに特化したITエンジニア専門の転職エージェントです。
現役エンジニアがキャリアカウンセリングを担当し、マッチング率の高さや転職後1年以内離職ゼロの実績があります。
利用者の約9割以上が年収アップしている点も魅力です。

また、IT・Web転職サービスなら【レバテックキャリア】は、IT・Webエンジニア向けの転職エージェントとして定評があります。
開発言語やフレームワーク、開発工程などエンジニア視点の詳細な条件で求人を紹介してくれるため、自社開発企業やSaaS企業への転職を目指すエンジニアに向いています。

フリーランスとして自社開発案件に参画する選択肢

正社員としての転職だけでなく、フリーランスとして自社開発企業の案件に参画するという選択肢もあります。
フリーランスであれば、複数の自社開発企業の案件を経験しながら、自分に合った環境を見つけることができます。

フリーランスエンジニアに安心保障と豊富な案件紹介を【Midworks】は、IT系フリーランスエンジニア専門のエージェントサービスで、エンド企業やSIer直案件を中心に高単価案件を提案してくれます。
交通費・書籍・勉強会費用の補助や、福利厚生も充実しており、フリーランスでも正社員並みの安心感を得られます。

PE-BANKとMidworksを比較:高単価フリーランス案件を獲得するためのエージェント選びと活用法でも詳しく比較していますので、フリーランスを検討している方は参考にしてください。

Group of young professionals engaged in a collaborative meeting in a modern office setting.

まとめ

SIerから自社開発企業に転職したエンジニアが、最初の90日で信頼を勝ち取るためのポイントを整理しました。

  • 最初の30日は観察に徹する:チームの開発フローやコミュニケーションスタイルを吸収する
  • 30〜60日は小さな成果を積み上げる:バグ修正やリファクタリングなど、リスクが低いタスクで信頼を構築する
  • 60〜90日は「この人に任せて大丈夫」と思ってもらう:ドキュメント整備や改善提案など、チームに貢献する動きを見せる

SIerと自社開発企業のギャップは確かに大きいですが、「学べば埋まるギャップ」です。
大切なのは、何を優先して学ぶかを見極め、持続可能なペースでキャッチアップしていくことです。

田中さんのように、最初の90日間を乗り越えれば、その後のキャリアは大きく広がります。
ぜひ、本記事で紹介したフレームワークを参考に、自社開発企業での活躍を目指してください。

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