IT女子 アラ美お疲れ様です!IT業界で働くアライグマです!
「モノリスが大きくなりすぎて手に負えない」「マイクロサービスに移行すべきだと言われたが、本当にうちのチームでやれるのか」。SaaSプロダクトの成長フェーズで、こうしたアーキテクチャの岐路に立たされるPjMやリードエンジニアは少なくないでしょう。実は、モノリスからマイクロサービスへ一気に移行するのではなく、モジュラモノリスという中間戦略を挟むことで、リスクを抑えながら段階的にシステムを進化させるアプローチが注目を集めています。
この記事では、モジュラモノリスの概念と導入判断の基準、そして実際に成功した事例と失敗した事例をPjMの視点から具体的に解説します。
モジュラモノリスが注目される背景と読者の共通課題



SaaSプロダクトが成長すると、モノリスアーキテクチャには必ず限界が訪れます。デプロイのたびに全体をリビルドしなければならず、1つのバグ修正が別の機能に影響を及ぼし、チーム間のコード競合が日常化する——こうした問題は、月間アクティブユーザーが数千人を超えたあたりから顕在化し始めます。
この状況に対する解として、ここ数年で急速に注目されているのがマイクロサービスアーキテクチャです。NetflixやSpotifyの成功事例がメディアで取り上げられ、「モノリスは時代遅れ、マイクロサービスこそ正解」という空気が業界に広がりました。
しかし、現実はそう単純ではありません。マイクロサービスには分散システム特有の複雑さがつきまといます。
- サービス間通信の設計と障害対応: ネットワーク越しのAPI呼び出しは、ローカルの関数呼び出しとは根本的に異なる
- データ一貫性の担保: 分散トランザクションやイベント駆動による結果整合性の設計が必要
- 運用負荷の増大: サービスごとのデプロイパイプライン、モニタリング、ログ集約の整備が不可欠
- 組織の成熟度要件: 各チームが独立してサービスを運用できるDevOps文化が前提
すでにTypeScriptバックエンドの通信方式を比較した記事でも触れましたが、サービス間通信の設計だけでも複数の選択肢があり、判断を誤ると技術負債が積み上がります。
ここで第三の選択肢として浮上するのがモジュラモノリスです。デプロイは単一のアプリケーションとして行いつつ、内部はモジュール(ドメイン境界)で明確に分離する。マイクロサービスの「関心の分離」という恩恵を享受しながら、分散システムの複雑さを回避できるアプローチです。



ケーススタディ:マイクロサービスに急いで移行して失敗した事例



あるBtoB SaaSを運営するDさん(30代PjM)のチームは、モノリスの限界を感じてマイクロサービスへの移行を決断しました。しかし、モジュラモノリスという中間ステップを踏まなかったことで、深刻な問題に直面します。
状況(Before)
Dさんのチームが運営するプロダクトは、月間アクティブユーザー約8,000人のBtoB SaaSでした。開発チームは5名で、以下の問題を抱えていました。
- デプロイ頻度が月4回に制限: モノリスのリグレッションテストに毎回丸1日かかり、リリースサイクルが伸びていた
- 機能追加のリードタイムが平均3週間: コードの依存関係が入り組み、1つの変更が予期せぬ箇所に波及
- 障害発生時の影響範囲が全サービス: 決済モジュールのバグで通知機能まで停止するケースがあった
- チーム間のコンフリクトが週平均5件: 共有コードベースへのプルリクエストが常に衝突していた
行動(Action)
Dさんのチームは「マイクロサービス化すれば全て解決する」と考え、モノリスを一気に8つのサービスに分割する計画を立てました。
- ユーザー管理、認証、課金、通知、レポート、API Gateway、管理画面、バッチ処理の8サービスに分割
- サービス間通信にはgRPCを採用
- Kubernetes上でHelmによるパッケージ管理を導入し、各サービスを独立してデプロイする体制を目指した
- 移行期間は6か月と見積もり
結果(After)
移行開始から12か月が経過した時点で、以下の状態に陥りました。
- 移行完了率が60%で停滞: 当初6か月の見積もりが倍以上に膨らみ、3サービスが未移行のまま
- 運用工数が月80人時 → 200人時に増大(150%増加): 8サービス分のCI/CD、モニタリング、アラート設定の管理で手一杯
- 障害切り分けに平均4時間: サービス間の通信障害がどこで発生しているか特定するのに時間がかかる
- デプロイ頻度は月4回のまま改善せず: サービス間の依存関係が整理されておらず、結局同時デプロイが必要だった
- 新機能開発が実質ストップ: 移行作業にリソースを取られ、ビジネス要件への対応が後回しに
Dさんは「5人のチームで8つのマイクロサービスを運用するのは、明らかにキャパシティを超えていた。モジュール境界の整理をせずに物理的に分割したことが最大の失敗だった」と振り返っています。



ケーススタディ:モジュラモノリスで段階的に分割して成功した事例
一方、同規模のBtoB SaaSを運営するEさん(30代リードエンジニア)のチームは、モジュラモノリスを中間ステップとして採用し、段階的な移行に成功しました。
状況(Before)
Eさんのチームも、Dさんと同様の課題を抱えていました。
- 月間アクティブユーザー約1万人のBtoB SaaSを6名で開発
- デプロイ頻度が月3回に制限されていた
- 機能追加のリードタイムが平均4週間
- 月間ダウンタイムが約2時間
行動(Action)
Eさんのチームは、いきなりマイクロサービスに移行するのではなく、まずモジュラモノリスへのリファクタリングを選択しました。
- ドメイン境界の明確化: ユーザー管理、課金、通知、レポートの4つのドメインモジュールに分離
- モジュール間のインターフェース定義: 各モジュール間はpublic APIのみを通じてやり取りし、内部実装への直接参照を禁止
- データベーススキーマの論理分離: 物理的には同一DBだが、スキーマ単位でモジュールごとのテーブルを明確に区分
- 段階的なマイクロサービス化: 負荷が高い通知モジュールだけを独立サービスとして切り出し
結果(After)
モジュラモノリス移行から6か月後、以下の改善が確認されました。
- デプロイ頻度が月3回 → 月15回に増加(5倍): モジュール単位でのテスト実行が可能になり、リリースサイクルが大幅に短縮
- 障害影響範囲がサービス全体 → 該当モジュールのみに局所化: 課金モジュールの障害が通知機能に波及しなくなった
- 運用工数が月80人時 → 月60人時に削減(25%削減): デプロイは単一アプリケーションのまま、K8sクラスタの管理コストが不要
- 移行期間は当初見積もり通りの6か月で完了: マイクロサービスへの一括移行と比べて半分の期間


Eさんは「モジュラモノリスのおかげで、分散システムの複雑さに向き合う前にドメイン境界を正しく設計できた。通知モジュールだけをマイクロサービスに切り出す判断も、モジュール境界が明確だったからこそスムーズだった」と語っています。なお、Cloudflare無料プランでインフラ基盤のセキュリティを強化した事例でも紹介しましたが、シンプルなデプロイ構成を維持できることは運用面で大きなアドバンテージです。



具体的な行動ステップ:モジュラモノリスの導入判断と設計手順
ここでは、読者がモジュラモノリスの導入を判断し、実際に設計を進めるための3つのステップを紹介します。
ステップ1:移行の必要性を判断するチェックリスト
以下の項目に3つ以上該当する場合、モジュラモノリスへのリファクタリングを検討すべきタイミングです。
- デプロイのたびにリグレッションテストに半日以上かかる
- 1つの機能変更が他の機能に予期せぬ影響を与えたことが直近3か月で3回以上ある
- チーム間のコードコンフリクトが週に3回以上発生する
- 新機能のリードタイムが2週間を超えている
- 特定のモジュールだけスケールしたいのに、全体をスケールせざるを得ない
逆に、チーム規模が3名以下で、モノリスの規模が管理可能な範囲であれば、無理にモジュラモノリスに移行する必要はありません。「今のモノリスで困っていることは何か」を具体的に言語化してから判断してください。
ステップ2:ドメイン境界を特定する
モジュラモノリスの設計で最も重要なのが、モジュール(ドメイン)の境界をどこに引くかです。
- ビジネスドメインで分ける: 「ユーザー管理」「課金」「通知」「レポート」など、ビジネス上の関心事で区切る
- データの所有権で分ける: 各モジュールが「所有する」テーブルを明確にし、他モジュールからの直接参照を禁止する
- 変更頻度で分ける: 頻繁に変更される領域と安定している領域を別モジュールにすることで、影響範囲を局所化できる
境界の引き方を誤ると、モジュール間の依存が密結合のまま残り、モジュラモノリスの恩恵が得られません。最初から完璧を目指さず、3〜5個のモジュールから始めるのが現実的です。
ステップ3:段階的に分離を進める
ドメイン境界が定まったら、以下の順序で段階的に分離を進めます。
- Phase A(2〜4週間): ディレクトリ構造をモジュール単位に再編成し、モジュール間の直接参照をインターフェース経由に置き換える
- Phase B(4〜8週間): DBスキーマをモジュールごとに論理分離し、クロスモジュールのクエリをAPI呼び出しに変更する
- Phase C(必要に応じて): 負荷特性が異なるモジュールだけを独立サービスとして切り出す。全てを切り出す必要はない
なお、SESから自社開発へのキャリアチェンジを目指すエンジニアにとっても、「モジュラモノリスの設計経験」は転職時のアピール材料になります。アーキテクチャ判断ができるエンジニアは、組織の中で希少な存在です。
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まとめ
モジュラモノリスは、モノリスの運用シンプルさとマイクロサービスの関心分離を両立する現実的なアーキテクチャ戦略です。本記事のポイントを振り返ります。
- マイクロサービスへの直接移行はリスクが高い: 少人数チームでの過度な分割は運用工数を増大させ、ビジネス成長を止める原因になる
- モジュラモノリスは有効な中間戦略: ドメイン境界を明確にしながらデプロイの単純さを維持できるため、段階的な進化が可能
- 判断基準は「チーム規模 × 課題の深刻度」: 3つ以上のシグナルに該当したらモジュラモノリスへの移行を検討すべきタイミング
まずは現在のコードベースで「どこにモジュール境界を引けるか」を考えることから始めてみてください。完璧な設計は不要です。3〜5個のモジュールに分けるだけでも、開発体験は大きく変わるはずです。













