
GraphQL導入判断ガイド:REST APIとの使い分けとプロジェクト適性の見極め方
お疲れ様です!IT業界で働くアライグマです!
「GraphQLを導入すべきか、RESTのままでいいのか」
新規プロジェクトの設計フェーズや、既存APIのリファクタリングを検討する際、この判断に悩むエンジニアは多いのではないでしょうか。私自身、PjMとして複数のプロジェクトでAPI設計の意思決定に関わってきましたが、「流行っているから」という理由だけでGraphQLを採用して苦労したケースも、逆にRESTで十分だったのに過剰設計になったケースも見てきました。
本記事では、GraphQLとREST APIの特性を整理し、プロジェクトの性質に応じた導入判断の基準を具体的に解説します。
GraphQLとREST APIの基本的な違い
まず、GraphQLとREST APIの根本的な設計思想の違いを整理します。
REST APIの特徴
REST(Representational State Transfer)は、リソース指向のAPI設計パターンです。
- エンドポイント単位: リソースごとにURLが決まる(例:
/users,/users/1) - HTTPメソッドで操作を表現: GET/POST/PUT/DELETEでCRUD操作を行う
- レスポンス形式が固定: サーバー側で返すフィールドが決まっている
- キャッシュしやすい: HTTPの標準的なキャッシュ機構を活用できる
GraphQLの特徴
GraphQLは、Facebookが開発したクエリ言語です。
- 単一エンドポイント: すべてのリクエストが
/graphqlに集約される - クライアント主導のデータ取得: 必要なフィールドだけをクエリで指定できる
- 型システム: スキーマで型が定義され、自己文書化される
- オーバーフェッチ/アンダーフェッチの解消: 必要なデータだけを1回のリクエストで取得
API設計の基本についてはAPI設計のベストプラクティス:RESTful設計とエラーハンドリングの実践ガイドも参考にしてください。
GraphQLの基礎を体系的に学ぶにはWeb APIの設計 (Programmer's SELECTION)がおすすめです。API設計の基本から実践的なパターンまで網羅されています。

プロジェクト適性の判断基準
GraphQLとRESTのどちらを選ぶべきかは、プロジェクトの特性によって大きく変わります。以下の判断基準を参考にしてください。
GraphQLが向いているケース
- 複数のクライアント(Web/iOS/Android)が異なるデータを必要とする: 各クライアントが必要なフィールドだけを取得できる
- データの関連が複雑で、複数リソースを横断して取得する場面が多い: N+1問題をクエリレベルで解決できる
- フロントエンドチームが独立して開発を進めたい: スキーマさえ決まれば、バックエンドの実装を待たずに開発可能
- APIの変更頻度が高く、バージョニングを避けたい: フィールドの追加・非推奨化が柔軟
REST APIが向いているケース
- シンプルなCRUD操作が中心: エンドポイント設計が直感的で学習コストが低い
- HTTPキャッシュを最大限活用したい: CDNやブラウザキャッシュとの相性が良い
- チームにGraphQLの経験者がいない: 学習コストと運用コストを考慮
- 外部公開APIとして提供する: RESTの方が広く理解されており、ドキュメントも書きやすい
TypeScriptでの型安全なAPI開発についてはTypeScriptで型安全なAPI開発を実現する実践ガイドも参考にしてください。
API設計の判断基準を深く理解するにはプロを目指す人のためのTypeScript入門 安全なコードの書き方から高度な型の使い方までが役立ちます。型安全なコードの書き方から高度な型の使い方まで体系的にまとまっています。
以下のグラフは、API設計パターン別の開発効率を比較したものです。

ケーススタディ:ECサイトのAPI設計判断
ここでは、私が実際に関わったプロジェクトでのAPI設計判断を紹介します。
状況(Before)
- プロジェクト: 中規模ECサイトのリニューアル(月間PV 50万程度)
- クライアント: Web(React)、iOS、Androidの3プラットフォーム
- 既存API: REST APIで約80エンドポイント
- 課題: 商品詳細ページで5回のAPIコールが必要、モバイルでの表示速度が遅い
行動(Action)
チームで検討した結果、以下の方針を採用しました。
- BFF(Backend for Frontend)パターンの採用: GraphQLをBFFとして導入し、既存REST APIはそのまま維持
- 段階的な移行: 商品詳細・カート・注文履歴の3画面から先行導入
- Apollo Serverの採用: Node.js環境で実績があり、キャッシュ機構も充実
// BFFとしてのGraphQLスキーマ例
type Product {
id: ID!
name: String!
price: Int!
description: String
images: [ProductImage!]!
reviews: [Review!]!
relatedProducts: [Product!]!
}
type Query {
product(id: ID!): Product
products(category: String, limit: Int): [Product!]!
}
結果(After)
- APIコール数: 商品詳細ページで5回 → 1回に削減
- レスポンスサイズ: 平均40%削減(不要なフィールドを取得しなくなったため)
- モバイル表示速度: LCP(Largest Contentful Paint)が2.8秒 → 1.9秒に改善
- 開発効率: フロントエンドチームがバックエンドの実装を待たずに開発を進められるように
ハマりポイント
- N+1問題: DataLoaderを導入せずに実装したため、初期は逆にパフォーマンスが悪化。DataLoaderでバッチ処理を実装して解決
- キャッシュ戦略: GraphQLはHTTPキャッシュが効きにくいため、Apollo Cacheの設計に時間がかかった
バックエンド設計のベストプラクティスについてはバックエンドアーキテクチャパターン:スケーラブルなシステム設計の実践ガイドも参考になります。
実際のプロジェクトでGraphQLを導入する際は、Clean Architecture 達人に学ぶソフトウェアの構造と設計でソフトウェア設計の基礎を固めておくと、設計判断がスムーズになります。

GraphQL導入時の実装パターン
GraphQLを導入する場合の具体的な実装パターンを紹介します。
スキーマファースト vs コードファースト
GraphQLの実装アプローチには大きく2つあります。
- スキーマファースト: SDLでスキーマを先に定義し、リゾルバを実装。チーム間の合意形成がしやすい
- コードファースト: TypeScriptのデコレータなどでスキーマを生成。型安全性が高い
私のチームでは、フロントエンドとバックエンドの並行開発を重視してスキーマファーストを採用しました。
認証・認可の実装
GraphQLでの認証・認可は、以下のパターンが一般的です。
// コンテキストでユーザー情報を渡す
const server = new ApolloServer({
typeDefs,
resolvers,
context: ({ req }) => {
const token = req.headers.authorization || '';
const user = verifyToken(token);
return { user };
},
});
// リゾルバでの認可チェック
const resolvers = {
Query: {
myOrders: (_, __, { user }) => {
if (!user) throw new AuthenticationError('ログインが必要です');
return getOrdersByUserId(user.id);
},
},
};
エラーハンドリング
GraphQLのエラーハンドリングは、RESTとは異なるアプローチが必要です。
- HTTPステータスコード: GraphQLは基本的に200を返し、エラーは
errorsフィールドで表現 - 部分的なエラー: 一部のフィールドだけがエラーでも、成功したフィールドは返せる
- エラーコードの設計:
extensionsフィールドでアプリケーション固有のエラーコードを返す
セキュリティ対策についてはAPI セキュリティのベストプラクティス:認証・認可・レート制限の実装ガイドも参考にしてください。
GraphQLのセキュリティと運用についてはJavaScript 第7版が詳しいです。JavaScriptの基礎から高度なパターンまで網羅されています。

REST APIからの段階的移行戦略
既存のREST APIからGraphQLに移行する場合、段階的なアプローチが重要です。
移行パターン1: BFFとしての導入
最もリスクが低いのは、既存REST APIの前段にGraphQL BFFを置くパターンです。
- メリット: 既存APIを変更せずに導入可能、ロールバックが容易
- デメリット: レイヤーが増えるため、レイテンシが若干増加
移行パターン2: 並行運用
新機能はGraphQL、既存機能はRESTで並行運用するパターンです。
- メリット: 新機能から段階的にGraphQLの知見を蓄積できる
- デメリット: 2つのAPIを維持するコストがかかる
移行パターン3: 完全置き換え
REST APIを完全にGraphQLに置き換えるパターンです。
- メリット: 一貫したAPI設計が実現できる
- デメリット: 移行コストが高く、リスクも大きい
私の経験では、パターン1(BFF)から始めて、効果が確認できたらパターン2(並行運用)に移行するのが最もバランスが良いと感じています。
マイクロサービスアーキテクチャでのAPI設計についてはマイクロサービスにおけるAPI Gateway設計の実践ガイドも参考になります。
移行戦略を立てる際は、Web APIの設計 (Programmer's SELECTION)で基礎を押さえておくと、判断がしやすくなります。

まとめ
本記事では、GraphQLとREST APIの使い分けと、プロジェクト適性の判断基準を解説しました。
押さえておきたいポイント:
- GraphQLは複数クライアント・複雑なデータ関連・頻繁なAPI変更があるプロジェクトに向いている
- REST APIはシンプルなCRUD・HTTPキャッシュ活用・外部公開APIに向いている
- 既存REST APIからの移行は、BFFパターンから段階的に進めるのがリスクが低い
- GraphQL導入時はN+1問題とキャッシュ戦略に注意が必要
明日から試せるアクション:
- 現在のプロジェクトのAPI呼び出しパターンを分析し、オーバーフェッチ/アンダーフェッチが発生していないか確認する
- GraphQL Playgroundで簡単なクエリを試し、開発体験を確認する
- チーム内でGraphQLの学習コストと導入メリットを議論する
「流行っているから」ではなく、プロジェクトの特性に合わせた技術選定が重要です。本記事の判断基準を参考に、最適なAPI設計を選択してください。










