循環的複雑度を活用したコード品質改善:リファクタリング判断の実践ガイド

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「このコード、複雑すぎてレビューが大変」「どの関数からリファクタリングすべきかわからない」――こうした悩みを持つエンジニアは多いのではないでしょうか。

私自身、PjMとしてコードレビューの効率化やリファクタリング優先度の判断に取り組む中で、循環的複雑度(Cyclomatic Complexity)という指標を活用してきました。本記事では、循環的複雑度の基本から、実際のプロジェクトでの活用方法までを整理していきます。

循環的複雑度とは何か

循環的複雑度は、1976年にThomas McCabeが提唱したコードの複雑さを数値化する指標です。プログラムの制御フロー(分岐やループ)の数に基づいて計算され、値が大きいほど複雑なコードであることを示します。

計算方法

循環的複雑度は、以下の式で計算されます。

M = E - N + 2P

M: 循環的複雑度
E: エッジ(制御フローグラフの辺)の数
N: ノード(制御フローグラフの頂点)の数
P: 連結成分の数(通常は1)

実務では、より簡易的に「分岐の数 + 1」で概算することも多いです。if文、for文、while文、case文などの分岐が増えるほど、循環的複雑度は高くなります。

複雑度の目安

一般的に、以下のような目安が使われます。

  • 1〜10:シンプルで理解しやすいコード
  • 11〜20:やや複雑だが許容範囲
  • 21〜50:複雑でテストが困難
  • 51以上:非常に複雑でリファクタリングが必要

コード品質の基本的な考え方については、SELECT * アンチパターンとデータモデル保守性:長期運用を見据えたクエリ設計も参考になります。

コード品質を体系的に学ぶには、達人プログラマーが参考になります。

Developer working on code in a modern office environment.

循環的複雑度とバグ発生率の関係

循環的複雑度が高いコードは、なぜ問題なのでしょうか。ここでは、複雑度とバグ発生率の関係を整理します。

複雑度が高いコードの問題点

循環的複雑度が高いコードには、以下のような問題があります。

  • テストが困難:分岐が多いほど、すべてのパスをテストするのが難しくなる
  • バグが潜みやすい:複雑なロジックは見落としやすく、バグの温床になる
  • 変更コストが高い:1箇所の変更が他の分岐に影響を与えるリスクがある
  • レビューが困難:レビュアーが全体を把握しにくく、問題を見逃しやすい

私がPjMとして関わったプロジェクトで観測したデータでは、複雑度が10を超えるとバグ発生率が急上昇し、50を超えると70%以上の確率でバグが発生していました。このデータは、リファクタリングの優先度を判断する際の重要な根拠となりました。

コード品質の改善については、ドメインモデリング実践ガイド:イミュータブルモデルとDeciderパターンで実現する堅牢な設計も参考になります。

ソフトウェア設計の原則を学ぶには、ソフトウェアアーキテクチャの基礎が参考になります。

循環的複雑度とバグ発生率の関係

循環的複雑度の計測方法

ここからは、実際に循環的複雑度を計測する方法を説明します。

ESLint(JavaScript/TypeScript)

JavaScript/TypeScriptプロジェクトでは、ESLintのcomplexityルールで計測できます。

{
  "rules": {
    "complexity": ["warn", { "max": 10 }]
  }
}

この設定で、循環的複雑度が10を超える関数に警告が出ます。

radon(Python)

Pythonでは、radonというツールで計測できます。

pip install radon
radon cc your_module.py -a

-aオプションで平均複雑度も表示されます。

ケーススタディ:複雑度計測の導入

状況(Before)
私のチームでは、レガシーなPythonプロジェクト(約5万行)を保守していました。コードレビューに時間がかかり、バグの修正が遅れることが多かったです。特に、1つの関数が500行を超えるような巨大な関数がいくつかあり、誰も手を付けたがらない状態でした。

行動(Action)
まず、radonを使ってプロジェクト全体の循環的複雑度を計測しました。その結果、複雑度50以上の関数が12個、複雑度20以上の関数が47個見つかりました。これらをスプレッドシートにリストアップし、バグ発生頻度と照らし合わせたところ、複雑度50以上の関数にバグが集中していることが判明しました。

radon cc src/ -a -s --total-average
# 出力例:
# src/legacy_module.py
#     F 45:0 process_order - C (32)
#     F 120:0 validate_input - D (45)
#     F 250:0 generate_report - F (67)

結果(After)
複雑度50以上の関数を優先的にリファクタリングした結果、3ヶ月後にはバグ発生率が40%減少しました。また、CIに複雑度チェックを組み込み、新規コードは複雑度15以下を必須としたことで、コードレビューの時間も平均30%短縮されました。

開発効率化については、GitLab 18のAIコード支援機能を活用した開発効率化:Duo Code Suggestionsの実践ガイドも参考になります。

Pythonのコード品質を高めるには、Effective Python 第3版 ―Pythonプログラムを改良する125項目が参考になります。

Team of developers collaborating on a project.

リファクタリング判断の実践

循環的複雑度を計測したら、次はリファクタリングの優先度を判断します。

優先度の判断基準

リファクタリングの優先度は、以下の基準で判断します。

  1. 複雑度が高く、変更頻度も高い:最優先でリファクタリング
  2. 複雑度が高いが、変更頻度は低い:余裕があればリファクタリング
  3. 複雑度は低いが、変更頻度が高い:現状維持でOK
  4. 複雑度も変更頻度も低い:放置でOK

リファクタリングのテクニック

複雑度を下げるための代表的なテクニックを紹介します。

  • 関数の分割:1つの関数が複数の責務を持っている場合、責務ごとに分割する
  • 早期リターン:ネストを減らすために、条件を満たさない場合は早めにreturnする
  • ポリモーフィズム:switch文やif-elseの連鎖をポリモーフィズムで置き換える
  • ストラテジーパターン:条件分岐をストラテジーオブジェクトに委譲する

早期リターンの例

以下は、早期リターンでネストを減らす例です。

# Before: ネストが深い
def process_order(order):
    if order is not None:
        if order.is_valid():
            if order.has_stock():
                # 処理
                return True
    return False

# After: 早期リターンでフラット化
def process_order(order):
    if order is None:
        return False
    if not order.is_valid():
        return False
    if not order.has_stock():
        return False
    # 処理
    return True

リファクタリング後の複雑度は、3から1に下がります。このように、早期リターンを使うだけで、コードの可読性が大幅に向上し、テストも書きやすくなります。私のチームでは、コードレビューで「ネストが深い」と指摘された場合、まず早期リターンを検討するルールを設けています。

設計パターンについては、AWSアンチパターン回避ガイド:設計・運用で陥りがちな落とし穴と対策も参考になります。

リファクタリングの技法を学ぶには、リファクタリング(第2版)が参考になります。

Software engineer reviewing code on multiple monitors.

CIへの組み込みと継続的な品質管理

循環的複雑度のチェックをCIに組み込むことで、継続的にコード品質を管理できます。

GitHub Actionsでの設定例

以下は、GitHub Actionsで複雑度チェックを行う設定例です。

name: Code Quality Check
on: [push, pull_request]

jobs:
  complexity-check:
    runs-on: ubuntu-latest
    steps:
      - uses: actions/checkout@v4
      - name: Set up Python
        uses: actions/setup-python@v5
        with:
          python-version: '3.11'
      - name: Install radon
        run: pip install radon
      - name: Check complexity
        run: |
          radon cc src/ -a -s --total-average
          radon cc src/ -a -nc --total-average | grep -E "^[A-F]" && exit 1 || exit 0

この設定で、複雑度がC(11-20)以上の関数があるとCIが失敗します。

閾値の設定

チームの状況に応じて、閾値を調整します。

  • 新規プロジェクト:複雑度10以下を必須に
  • レガシープロジェクト:まずは複雑度30以下を目標に、段階的に下げる
  • 緊急対応:一時的に閾値を緩和し、後でリファクタリング

CI/CDの設計については、AWS LambdaとDurable Functionsで構築するサーバーレスワークフローも参考になります。

CI/CDの実践を学ぶには、アジャイルサムライが参考になります。

Developer working on continuous integration pipeline.

まとめ

ここまで、循環的複雑度を活用したコード品質改善の方法を整理してきました。

・循環的複雑度は、コードの複雑さを数値化する指標で、分岐の数に基づいて計算される
・複雑度が10を超えるとバグ発生率が急上昇し、50を超えると非常に危険
・ESLint(JavaScript)やradon(Python)で簡単に計測できる
・リファクタリングの優先度は「複雑度 × 変更頻度」で判断する
・CIに組み込むことで、継続的にコード品質を管理できる

まずは自分のプロジェクトで循環的複雑度を計測し、複雑度が高い関数をリストアップするところから始めてみてください。数値で可視化することで、リファクタリングの優先度が明確になり、チーム全体で品質改善に取り組みやすくなります。

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