
AIで技術的負債を資産に変える。Claude Codeを使ったレガシーコード改善プロジェクトのはじめ方
こんばんは!IT業界で働くアライグマです!
開発プロジェクトの奥深く、誰もがその存在を知りながら、決して足を踏み入れようとしない領域。そこには、古代遺跡のように静かに眠る“レガシーコード”が存在します。コードの冒頭には、// 2010-05-08 by Suzuki. Do not touch!
といった、もはや誰にも真意を尋ねることのできない、呪いのようなコメントが残されているかもしれません。
「触らぬ神に祟りなし」。私たちはそう自分に言い聞かせ、見て見ぬふりをしてきました。しかし、この放置されたコードは、静かに技術的負債という利息を増やし続け、新しい機能開発の速度を蝕み、やがてはビジネスそのものの成長を妨げる巨大な足枷となっていきます。
この恐怖と諦めに満ちた暗闇に、今、一条の光が差し込もうとしています。それは、「Claude Code」に代表される、最新のAIモデルがもたらす革新的なアプローチです。AIは、古代の碑文を解読する優れた考古学者のようにコードを読み解き、熟練の外科医のように安全にリファクタリングを施す、私たちの最も頼もしいパートナーとなり得るのです。
この記事では、誰もが触れることを恐れたレガシーコードに再び光を当て、安全かつ効率的に価値ある資産へと蘇らせるための、具体的なコード読解・リファクタリング術を、私自身の開発者およびPjMとしての視点も交えながら、徹底的に解説していきます。
なぜ私たちはレガシーコードを恐れるのか?
この根深い恐怖の正体を、まずは分解してみましょう。私たちがレガシーコードを前にして足がすくむのには、明確な理由があります。
ドキュメントの欠如、あるいは「嘘」
理想的には、コードの意図を説明する詳細なドキュメントが存在するはずです。しかし、現実にはドキュメントそのものが存在しないか、あるいは存在したとしても、度重なる仕様変更の末に更新が追いつかず、もはや現状のコードの動きとは全く異なる「嘘」をつく化石のような資料になっているケースがほとんどです。頼れるのは、目の前にある難解なコードのみ、という状況です。
テストコードが存在しないという現実
レガシーコードに手を入れる上で、最大の恐怖は「テストコードの不在」です。自分の加えた変更が、システムのどこか別の場所で、予期せぬ副作用(デグレード)を引き起こしていないか。それを検証する術がありません。どんなに小さな修正であっても、それは常にリポジトリ全体を危険に晒すギャンブルとなってしまうのです。
複雑に絡み合った依存関係(スパゲッティコード)
長年にわたって多くの開発者が場当たり的な修正を加えてきた結果、コードはまるでスパゲッティのように複雑に絡み合っています。一つの関数が多くの責務を持ちすぎ、グローバル変数が多用され、どこからどこまでが影響範囲なのか、もはや誰にも予測できません。
担当者の不在と責任の恐怖
そのコードを書いた開発者は、すでに会社を去っています。当時の仕様を知る者もいません。PjM(プロジェクトマネージャー)の視点から見ても、これは深刻なリスクです。なぜなら、もしあなたがそのコードに手をつけてシステムが停止した場合、その責任はすべて、善意で修正を試みたあなた自身に降りかかってくるからです。この理不尽な責任の恐怖が、私たちを「何もしない」という、最も安全に見える選択へと導いてしまうのです。
「Claude Code」という名の考古学者:安全なコード読解術
リファクタリングの第一歩は、外科手術の前の精密検査と同じく、正確な「読解」から始まります。Claude Codeは、この読解フェーズにおいて、人間の何倍もの速さで、客観的な分析を行ってくれます。
「このコードは何をしていますか?」から始める
最もシンプルかつ強力なテクニックは、対象の関数やクラスをごっそりAIに渡し、「このコードの目的、入力、出力を日本語で分かりやすく説明してください」と尋ねることです。AIは、難解な変数名や古いライブラリの呼び出しを解きほぐし、そのコードが果たしているビジネスロジック上の役割を、驚くほど的確に言語化してくれます。これは、読解の最初の、そして最も重要な足がかりとなります。
依存関係と影響範囲を特定させる
次に、そのコードがプロジェクト全体の中でどのような位置づけにあるかを把握します。「この関数を呼び出している他の箇所をすべてリストアップして」「このメソッドが依存している外部クラスやグローバル変数を教えて」と尋ねることで、影響範囲を特定できます。
私のようなPHP開発者であれば、古いLaravelプロジェクトでよく見かける、どこでインスタンス化されているか不明なサービスクラスや、複雑なコールバックが絡む処理の依存関係をAIに追跡させることで、手作業でのコードリーディングに比べて、何時間もの時間を節約できます。
AIをメスにする:安全なリファクタリング実践術
コードの正体を突き止めたら、いよいよリファクタリングに着手します。ここでもAIは、優秀な執刀医として機能します。
Step 0: テストコードを生成させる
安全なリファクタリングは、テストコードなしにはありえません。 これが鉄則です。しかし、レガシーコードにはテストがありません。ならば、作ればいいのです。
AIにこう依頼します。「先ほどの分析に基づき、この関数の現在の挙動を保証するためのユニットテストを、PHPUnitで網羅的に生成してください。正常系だけでなく、想定されるエッジケースも含めてください。」
AIが生成したテストコードが、私たちのリファクタリング作業における「命綱」となります。これから行う変更の後、このテストがすべて通れば、少なくとも「元の挙動は破壊していない」という強い確信を得ることができるのです。
小さな単位でのリファクタリングを依頼する
決して「この1000行のファイルをリファクタリングして」といった、漠然とした指示を出してはいけません。AIの能力を最大限に引き出すコツは、人間が執刀医に指示を出すように、具体的かつ小さな単位で依頼することです。
「このネストが深いif文を、早期リターン(ガード節)を使って書き換えて」
「この部分のロジックを、『calculateShippingFee』という適切な名前のプライベートメソッドとして抽出して」
このように、小さな改善を繰り返し、その都度先ほど生成したテストを実行する。この地道なサイクルこそが、安全なリファクタリングへの唯一の道です。
PjM視点:レガシーコードと向き合う組織戦略
こうしたAIによる技術的なアプローチは、プロジェクトマネジメントの観点からも、組織に大きなメリットをもたらします。
技術的負債の可視化と改善計画の立案
これまで「あのモジュールは闇が深い」と感覚的にしか語れなかった技術的負債を、AIに分析させることで、「循環的複雑度」や「依存関係の数」といった客観的な指標で可視化できます。PjMとして、この客観的なデータに基づき、リファクタリングすべき箇所の優先順位を決定し、その改善に必要な工数をステークホルダーに説明することが、以前より遥かに容易になります。
属人性の排除とチームの知識共有
AIは、そのシステムに唯一詳しい「生き字引」のようなシニアエンジニアの負荷を劇的に軽減します。AIがコードを解説し、ドキュメントを生成することで、これまで特定の個人に集中していた暗黙知が、チーム全体の共有資産(形式知)へと変わっていきます。これにより、チームの誰か一人が欠けてもプロジェクトが停止しない、よりレジリエント(強靭)な開発体制を構築できるのです。
まとめ:レガシーは「負債」から「資産」へ
Claude Codeに代表される最新のAIは、レガシーコードの問題を魔法のように一瞬で解決してくれるわけではありません。しかし、そのコードを理解し、改善に着手するための心理的・技術的な障壁を、劇的に引き下げてくれることは間違いありません。
AIという強力なパートナーを得た今、レガシーコードはもはや、触れることすら許されない呪われた「負債」ではなく、私たちの手で改善し、価値を再発見できる、磨かれる前の「原石」に変わります。そして、安全にリファクタリングされ、モダンな設計へと生まれ変わったコードは、再び企業の競争力を支える強固な「資産」となるのです。
もう、見て見ぬふりをするのはやめにしましょう。AIという光を手に、あなたのプロジェクトに眠る古代遺跡の探索へと、一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。