AIは“止まる”と知った日。ChatGPT大規模障害がPjMとエンジニアに突きつけた「信頼性の現実」

こんばんは!IT業界で働くアライグマです!

都内の事業会社でPjMとして、AI技術の活用を推進する一方で、そのリスク管理にも頭を悩ませる日々を送っている私です。エンジニアとして長年、PHP、Laravel、JavaScript(最近はVue3での開発に注力しています!)といった技術でサービスを構築してきた経験から、外部APIの安定性が、いかに自社サービスの信頼性に直結するかを痛感しています。

さて、2025年6月10日、私たちの多くが、その存在を空気のように当たり前のものとして捉え始めていた「相棒」が、突然沈黙しました。AIチャットの巨人「ChatGPT」と、そのAPIサービスが、エラー率の急上昇という形で大規模な障害に見舞われ、実に12時間以上にわたって正常に利用できない状態が続いたのです。

このニュースは瞬く間にX(旧Twitter)を駆け巡り、世界中のユーザーから悲鳴や戸惑いの声が上がりました。「仕事が進まない!」「私の脳の一部が機能停止したみたいだ…」といった声と共に、「AIサービスはまだ信頼できないのか」「単一のAIに依存しすぎるのは危険だ」といった、AIサービスの「信頼性」を巡る大きな議論が巻き起こりました。

このChatGPTの大規模障害は、単なる一過性の技術トラブルではありません。それは、AIという新しいインフラに、私たちがどれほど深く、そして急速に依存し始めているかという現実と、その脆弱性を浮き彫りにした、IT業界全体にとっての重要な「ウェイクアップコール」だったと私は考えています。

今日は、この出来事が私たちに何を突きつけたのか、そしてPjMやエンジニアとして、この教訓から何を学び、どう行動すべきなのかを、私の視点から考察してみたいと思います。

何が起きたのか?ChatGPTを襲った12時間超の「大規模障害」

まずは、今回の障害の概要と、その影響の大きさを振り返ってみましょう。

障害のタイムラインと影響範囲

報道やOpenAIの公式ステータスページによると、障害は6月10日の午前中(日本時間)から始まりました。当初は一部のユーザーでレスポンスが遅延したり、エラーが返されたりする散発的なものでしたが、徐々に「エラー率の上昇」が深刻化。最終的には、Webインターフェースでの対話も、API経由での利用も、極めて困難な状況が12時間以上にわたって継続しました。

影響範囲は甚大です。

  • 一般ユーザー: レポート作成、メールの下書き、アイデアの壁打ち、プログラミングの質問など、日常的な知的生産活動がストップ。
  • 企業・開発者: ChatGPTのAPIを組み込んだ無数のアプリケーションや社内ツールが機能不全に陥り、ビジネスに直接的な影響が出ました。

OpenAIの対応と原因究明の行方

障害発生後、OpenAIはステータスページを通じて状況を報告し、原因の特定と修正作業を進めていることを伝え続けました。多くのユーザーがその更新情報を固唾をのんで見守っていましたが、完全復旧までに半日以上を要したという事実は、問題の根深さを物語っています。原因の詳細については、今後のOpenAIからの正式な報告が待たれます。

Xで巻き起こった「AIの信頼性」を巡る大論争

この障害の間、Xでは「#ChatGPTダウン」といったハッシュタグがトレンド入りし、活発な議論が交わされました。

  • 依存への警鐘: 「単一のAIサービスに業務フローを依存させることの危険性がよくわかった」「これからはマルチAI戦略が必須だ」
  • 擁護と共感: 「これだけ巨大なサービスなら障害はつきもの。AWSだって過去に大規模障害を起こしている」「OpenAIのエンジニア、頑張って…!」
  • ビジネスへの影響: 「API連携してるうちのサービス、完全に止まってる…SLA(サービス品質保証)はどうなってるんだろう?」

これらの声は、AIがもはや「面白いおもちゃ」ではなく、社会やビジネスを支える重要な「インフラ」として認識され始めていることの裏返しと言えるでしょう。

なぜ私たちはこれほど“動揺”したのか?AIへの深い依存という現実

今回の障害で、多くの人が感じたであろう焦りや業務の停滞。それは、私たちが想像以上にAIに深く依存し始めていたという現実を浮き彫りにしました。

開発現場に組み込まれた「AIという名のインフラ」

PjMとして、またエンジニアとして、私は近年の開発現場の変化を肌で感じています。

  • コード生成・リファクタリング: AIがコードの雛形を書き、品質を改善する。
  • デバッグ・問題解決: AIがエラーの原因を推測し、解決策を提示する。
  • ドキュメント作成: AIがコードコメントや仕様書のドラフトを作成する。

これらの作業は、もはやAIなしでは考えられないほど、私たちのワークフローに深く組み込まれています。ChatGPT APIの停止は、開発チームにとって、GitリポジトリやCI/CDツールが停止するのと同じレベルの「インシデント」なのです。

思考のパートナーとしてのAI:失われた「外部脳」

さらに深刻なのは、AIが単なる作業ツールだけでなく、「思考のパートナー」としての役割を担い始めていることです。企画のアイデア出し、複雑な問題の分析、文章の構成検討など、私たちは無意識のうちにAIを「外部脳」として活用しています。その「外部脳」が突然利用できなくなることは、思考プロセスそのものの停止を意味し、多くの知的労働者を立ち往生させてしまいました。

PjM/エンジニアがこの「障害」から学ぶべき教訓と対策

この痛みを伴う経験を、私たちは次に活かさなければなりません。PjMとして、またエンジニアとして、私たちが学ぶべき教訓は数多くあります。

教訓1:単一障害点(SPOF)を回避する戦略

今回の最大の教訓は、クリティカルな機能を単一の外部サービスに完全に依存させることの危険性です。

PjMとしては、AIを活用する機能の企画段階で、必ず「もしこのAIサービスが停止したらどうなるか?」というリスク評価を行う必要があります。そして、可能であれば、

  • 代替AIへの切り替え: 緊急時に、AnthropicのClaudeやGoogleのGeminiといった他のAIモデルのAPIに切り替えられるような設計を検討する。
  • フォールバック機能の実装: AI機能が利用できない場合に、機能制限版や、AIを使わない従来型の処理に自動で切り替わるような「縮退運転」の仕組みを用意する。

といった「プランB」を準備しておくべきです。

教訓2:回復力のあるシステム設計(レジリエンス)の徹底

エンジニアとしては、外部サービスの障害は「起こりうるもの」として、それに耐えうる「回復力のある(レジリエントな)」システムを設計する責任があります。

私が普段、PHP/Laravelで外部APIを呼び出す機能を実装する際には、

  • 適切なタイムアウト設定: 外部APIからの応答が遅い場合に、自社のサービス全体が引きずられて遅くならないよう、適切なタイムアウト値を設定する。
  • リトライ処理: 一時的なネットワークエラーなどを考慮し、指数関数的バックオフ(リトライの間隔を徐々に長くする)を伴う、賢いリトライ処理を実装する。
  • サーキットブレーカー: 外部APIの障害が多発している場合に、一時的にそのAPIへのリクエストを遮断し、自社システムへの負荷を軽減する「サーキットブレーカー」パターンの導入。

といった、防御的なコーディングを徹底することが、これまで以上に重要になります。

教訓3:AIサービスのSLA(サービス品質保証)を正しく理解する

PjMとしては、利用するAIサービスのSLAを契約前にしっかりと確認し、理解しておく必要があります。

  • 稼働率の保証: どの程度の稼働率が保証されているのか。
  • 障害時のサポート体制: 障害発生時に、どのようなサポートが受けられるのか。
  • 補償内容: SLAを達成できなかった場合に、どのような補償(例えば、利用料金の減額など)があるのか。

現在のAIサービスは、まだ「ベストエフォート(最大限の努力はするが、結果を保証しない)」型のものも多いのが実情です。そのリスクを理解した上で、導入を判断しなければなりません。

教訓4:AIへの依存度をモニタリングし、制御する

チームや組織として、自分たちがどの業務で、どの程度AIに依存しているのかを定期的に棚卸しし、その依存度を客観的に評価することが重要です。依存度が高すぎるクリティカルなプロセスについては、リスク低減策を講じる必要があります。

AIサービスの「信頼性」の未来:私たちは何を期待すべきか

今回の障害は、AIサービスの信頼性という課題を浮き彫りにしましたが、これは業界が成熟していく上での健全な成長痛とも言えるでしょう。

「ベストエフォート」から「ミッションクリティカル」へ

ビジネスシーンでのAI活用が広がるにつれて、ユーザーからの信頼性に対する要求はますます高まります。これに応える形で、AIサービス提供各社は、インフラの冗長化や安定性向上に、今後さらに巨額の投資を行っていくはずです。AIサービスも、いずれは他のクラウドサービスと同様に、ミッションクリPjMの視点:AIプラットフォーム選定の新たな判断軸ティカルな用途に耐えうる高い信頼性を実現していくでしょう。

競争がもたらす信頼性の向上

OpenAIだけでなく、Google、Anthropic、そして他のプレイヤーがAI市場で激しく競争することは、性能だけでなく、信頼性の向上にも繋がります。「安定して使えること」も、サービス選定における重要な差別化要因となるからです。

それでも「100%の安定稼働」は幻想

しかし、忘れてはならないのは、どれほど技術が進歩しても、「100%落ちないシステム」は存在しないということです。AWSやGoogle Cloudといった巨大クラウドプラットフォームでさえ、過去に大規模な障害を経験しています。成熟した技術との付き合い方とは、障害が起きないことを祈るのではなく、「障害は必ず起きるもの」という前提に立ち、それに備えることなのです。

まとめ:AIという新たなインフラと、賢く付き合うために

ChatGPTの12時間超に及ぶ大規模障害は、多くの人にとって痛みを伴う経験でした。しかし、それは同時に、私たちがAIという新しいテクノロジーとどう向き合っていくべきかについて、多くの重要な教訓を与えてくれた「学びの機会」でもありました。

この出来事が示したのは、AIがもはや単なる便利なツールではなく、私たちの仕事や社会を支える重要な「インフラ」となりつつあるという現実と、そのインフラがまだ発展途上であり、脆さを抱えているという事実です。

PjMとしてもエンジニアとしても、私たちはこの現実を直視し、

  • 戦略レベルでのリスク分散(マルチAI)
  • 設計レベルでの回復力(レジリエンス)
  • 運用レベルでの監視と準備

といった、AIという新しいインフラと賢く付き合っていくための知恵と技術を身につけていかなければなりません。

今回の障害は、必ずや業界全体の信頼性向上に向けた大きな一歩となるはずです。そのプロセスの中で、私たち自身もまた、より強く、より賢い開発者へと成長していくのでしょう。