キングダムの「王騎将軍」から、私が学んだプロジェクトマネジメント術

こんばんは!IT業界で働くアライグマです!

週末、久しぶりに『キングダム』を読み返していたら、ふと、あることに気づきました。

春秋戦国時代という、血と硝煙の匂いが立ち込める過酷な世界。そこで繰り広げられる人間ドラマや壮大な戦いは、エンターテイメントとして最高に面白いのはもちろんですが、その物語の根底には、現代の私たちの仕事、特に「プロジェクトマネジメント」に通じる、普遍的な教訓が、まるで宝物のように散りばめられているのです。

数多の魅力的な将軍たちの中でも、私がPjMとして、そして一人のリーダーとして、最も深く感銘を受け、自らの仕事の指針としている人物がいます。

そう、秦の六大将軍最後の一人、「秦の怪鳥」こと王騎将軍です。

今日は、あの伝説の大将軍の言葉や行動から、私が学んだ、プロジェクトを成功に導くためのリーダーシップ術について、その魅力を存分に語り尽くしたいと思います。

教訓その1:チームに「最高の景色」を見せる(ビジョンの共有)

「天下の大将軍ですよ」

王騎将軍が、しばしば口にするこの言葉。一見すると、ただの自信過剰な自己紹介に聞こえるかもしれません。しかし、PjMの視点から見ると、これはプロジェクトマネジメントにおける最も重要な行為、すなわち「ビジョンの共有」そのものなのです。

王騎は、ただ強いだけではありません。彼は、彼に従う全ての兵士たちに、「自分たちは、ただの兵卒ではない。天下の大将軍と共に、歴史を動かす戦いに身を投じているのだ」という、強烈な当事者意識と誇りを与えます。彼が目指す「最高の景色」を、常に言葉と行動で示し続けることで、軍全体の士気を極限まで高めているのです。

これは、現代のプロジェクトマネジメントにおいても、全く同じことが言えます。

PjMの最も重要な仕事は、Jiraのチケットを管理することでも、進捗報告の資料を作ることでもありません。「このプロジェクトが成功した暁に、私たちはどんな素晴らしい景色を見ることができるのか?」という、魅力的で、心を震わせるビジョンを、チームメンバーやステークホルダーに、繰り返し、手を変え品を変え、語り続けることです。

例えば、大規模なシステムリプレイスのプロジェクトを考えてみましょう。エンジニアにとって、それは古くて厄介なレガシーコードとの、長く苦しい戦いです。ここでPjMが「スケジュール通りに進めてください」とだけ言っても、チームの士気は上がりません。

そうではなく、「このリプレイスをやり遂げれば、私たちは長年の技術的負債から解放される。ユーザーは今の10倍速いシステムを手に入れ、未来の開発者は、もっと楽しく、もっと創造的な機能開発に集中できるようになる。これは、未来の会社を救うための、英雄的な仕事なんだ」と、その先にある「最高の景色」を語るのです。

単なる「作業リスト」ではなく、その先にある「物語」を語る。王騎将軍がそうであったように、明確で魅力的なビジョンこそが、チームを一つにし、困難なプロジェクトを乗り越えるための、最強の武器になるのです。

教訓その2:若き才能を信じ、任せる勇気(権限移譲)

「ンフフフ…良い眼をしていますよォ、童(わっぱ)」

王騎将軍の魅力の一つに、次世代の才能を見抜き、育てる能力の高さがあります。

彼は、まだ何者でもなく、ただの歩兵であった信(主人公)の中に、将軍の素質を見出し、重要な局面で、あえて大きな裁量権を与え、困難な任務を任せます。馬陽(ばよう)の戦いで、信に特殊部隊を率いて敵将を討つという、普通では考えられない大役を与えるシーンは、その象徴です。

これは、多くのマネージャーが陥りがちな「マイクロマネジメント」の対極にある、「権限移譲」という、極めて高度なマネジメント技術です。

プロジェクトマネジメントの世界でも、不安のあまり、メンバーの作業の細部にまで口を出し、全てのコードをレビューし、全ての意思決定を自分で下そうとするPjMがいます。しかし、その行為は、メンバーの主体性を奪い、成長の機会を潰し、チーム全体のパフォーマンスを著しく低下させます。

真に優秀なPjMは、王騎将軍のように、チームメンバー一人ひとりの能力とポテンシャルを信じ、「何を(What)」やるべきかは明確に示しつつも、「どうやるか(How)」の部分は、彼らの専門性に敬意を払い、大胆に任せる勇気を持っています。

もちろん、それは単なる「丸投げ」ではありません。

王騎が、信に無理難題を押し付けつつも、常に戦況全体を見守り、副官である騰(とう)をサポートにつけるなど、いざという時には助け舟を出す準備をしていたように、PjMもまた、メンバーに仕事を任せながらも、定期的な1on1で進捗を確認し、困っていることがないかを聞き出し、失敗した際には共に責任を負う、という「セーフティネット」を用意しておく必要があります。

メンバーを信じ、任せる。その勇気こそが、個人を成長させ、ひいてはチームを、自律的に動ける最強の組織へと育て上げていくのです。

教訓その3:戦場全体を俯瞰する「鳥の目」(状況把握能力)

王騎将軍の戦は、常に冷静で、そして大局的です。

彼は、目の前の敵との一騎打ちに熱くなることなく、常に戦場全体を俯瞰する「鳥の目」で状況を捉えています。地形の有利不利、兵站(補給線)の状況、敵将の性格、そして天候の変化まで。あらゆる情報を統合的に分析し、勝利への最も確率の高い道筋を導き出します。

この「鳥の目」を持つ能力は、PjMにとって、まさに生命線とも言えるスキルです。

PjMは、エンジニアのように一つの機能の実装に没頭したり、デザイナーのように一つのUIのピクセル単位の調整に集中したりするわけにはいきません。私たちは、常にプロジェクトという「戦場」全体を、俯瞰で見渡している必要があります。

  • 進捗状況: スケジュールは、計画通りに進んでいるか?遅延の兆候はないか?
  • 技術的リスク: 現在採用している技術に、将来的なボトルネックとなる可能性はないか?
  • ビジネス要件: 市場や競合の状況に変化はないか?今作っているものは、本当にユーザーの課題を解決するのか?
  • チームのコンディション: メンバーは疲弊していないか?チーム内のコミュニケーションは円滑か?

これらの多岐にわたる情報を常に収集し、分析し、潜在的なリスクを誰よりも早く発見し、先手を打つ。それが、PjMの役割です。

王騎が、戦況に応じて巧みに陣形を変え、予備の部隊を投入したように、私たちPjMもまた、プロジェクトの状況に応じて、リソースの再配分を行ったり、ステークホルダーと交渉して仕様の調整を行ったりと、常に柔軟な意思決定を下し続けなければならないのです。

教訓その4:人の「心」を動かす達人であること(心理的安全性)

王騎軍がなぜあれほどまでに強いのか。それは、兵士一人ひとりが、王騎将軍に対して絶対的な信頼と、ある種の「愛情」を抱いているからです。彼の独特な口調や、一見ふざけているような言動も、全ては過酷な戦場で兵士たちの緊張を和らげ、士気を高めるための、計算され尽くしたパフォーマンスです。

彼は、兵士たちが最高のパフォーマンスを発揮するためには、恐怖による支配ではなく、「この人のためなら、命を懸けられる」と思わせるような、心理的な繋がりが不可欠であることを、本能的に理解しています。

これは、現代のIT業界で最も重要視される概念の一つ、「心理的安全性(Psychological Safety)」に他なりません。

心理的安全性とは、「このチームの中では、自分の意見を言ったり、失敗を報告したりしても、罰せられたり、恥をかかされたりすることはない」と、メンバー全員が安心して感じられる状態のことです。

PjMとして、このような環境を作ることは、プロジェクトの成功に不可欠です。

  • 失敗を歓迎する文化: バグの報告や、スケジュールの遅延といった「悪いニュース」を、最初に報告してくれたメンバーを、決して責めてはいけません。むしろ、「早く教えてくれてありがとう。一緒に解決策を考えよう」と、その勇気を称えるべきです。
  • どんな意見も尊重する: たとえ若手のエンジニアからの、一見突拍子もないような提案であっても、決して頭ごなしに否定せず、「面白い視点だね。もう少し詳しく聞かせてくれる?」と、真摯に耳を傾ける姿勢が重要です。

王騎軍の兵士たちが、恐怖からではなく、誇りと信頼から戦っていたように、心理的安全性の高いチームのメンバーは、自らの能力を最大限に発揮し、驚くほどの創造性と問題解決能力を見せてくれるのです。

まとめ

時代は2000年以上も隔たっていますが、多くの人間を率い、複雑な状況を読み解き、一つの大きな目標を達成するためのリーダーシップの本質は、驚くほど変わっていません。

  • チームに「最高の景色」を見せる、熱い「ビジョン」
  • 若き才能を信じ、任せる「勇気」
  • 戦場全体を俯瞰する、冷静な「鳥の目」
  • 人の心を動かし、安心させる「人間力」

王騎将軍が、その圧倒的な武力だけでなく、これらの卓越したマネジメント能力を兼ね備えていたからこそ、彼は「天下の大将軍」として、今もなお私たちの心を魅了し続けるのでしょう。

「キングダムから、明日の仕事のヒントを得る」

そんな楽しみ方も、たまには良いのではないでしょうか。この記事が、日々奮闘するあなたの、何か一つの気づきや、明日への活力となれば幸いです。