なぜ、私はTailwind CSSではなく「PrimeVue」を選ぶのか? PjMの視点で語る、コンポーネントライブラリ選定の思考法

こんばんは!IT業界で働くアライグマです!

モダンなフロントエンド開発の世界は、豊かな選択肢に満ちています。しかし、その豊かさゆえに、私たちはしばしば「技術選定」という、悩ましくも重要な岐路に立たされます。特に、UI(ユーザーインターフェース)をどう実装するか、という問題は、プロジェクトの生産性を大きく左右します。

現在、その選択肢は、大きく二つの流派に分かれていると言えるでしょう。

一つは、「Tailwind CSS」に代表される、自由で、カスタマイズ性に富んだ「ユーティリティファーストCSS」。

そしてもう一つが、「PrimeVue」のような、完成された部品を組み立てていく、堅牢で、生産性の高い「UIコンポーネントライブラリ」です。

先日、私が開発を始めた「正規表現ストッカー」において、私は後者であるPrimeVueを選択しました。

今日は、なぜ私が、現代のフロントエンド開発で絶大な人気を誇るTailwind CSSではなく、あえてPrimeVueという選択をしたのか。その背景にある、単なる個人の好みではない、PjMとしての戦略的な思考のプロセスを、余すところなくお話ししたいと思います。

前提:それぞれの「思想」を理解する

技術的な優劣を語る前に、まず、この二つのアプローチが、どのような根本的な「思想」に基づいて作られているのかを理解することが、全ての始まりです。

Tailwind CSS(ユーティリティファースト):「デザインの“原子”を提供する」

Tailwind CSSの思想は、「HTMLから、離れるな」という一言に集約されます。

text-xl, font-bold, bg-blue-500, p-4…といった、極めて小さな単位のスタイル(ユーティリティクラス)を、HTMLのclass属性に直接書き込んでいくことで、UIを構築します。

これは、CSSファイルをほとんど書くことなく、HTMLファイルの中だけで、極めて自由で、カスタマイズ性の高いデザインを実現するためのアプローチです。Tailwindは、私たちに完成された「家具」を提供するのではなく、家具を作るための最高の「木材」や「ネジ」(=原子)を提供してくれるのです。

PrimeVue(コンポーネントライブラリ):「完成された“部品”を提供する」

一方、PrimeVueの思想は、「車輪の再発明をするな」という言葉に象徴されます。

<Button>, <DataTable>, <Dialog>…といった、Webアプリケーションで必要とされるであろう、あらゆるUIが、既にプロのデザイナーとエンジニアによって、機能とデザインが完璧にパッケージングされた「部品(コンポーネント)」として提供されています。

私たちの仕事は、これらの完成された部品を、まるでプラモデルのように、適切に組み立てていくことです。PrimeVueは、私たちに最高の「エンジン」や「タイヤ」を提供し、私たちはそれらを組み合わせて、最速で車を完成させることに集中できるのです。

私がTailwind CSSを「選ばない」理由

まず断っておきたいのは、私はTailwind CSSが嫌いなわけでは全くありません。むしろ、その思想と、それがもたらすデザインの自由度には、深い敬意を抱いています。

しかし、今回の「正規表現ストッカー」という、個人開発プロジェクトにおいて、私は戦略的にTailwind CSSを選ばない、という決断をしました。その理由は、PjMとして、プロジェクトの「リスク」と「リソース」を天秤にかけた結果です。

デザインの自由度が高すぎる(意思決定コストの増大)

Tailwindの最大の強みである「自由度の高さ」は、リソースが限られた個人開発においては、時として「弱み」に転じます。

ボタンの色、角の丸み、マウスオーバーした時の影の出方、要素間の余白…。Tailwindを使えば、これら全てをピクセル単位で、無限の組み合わせから作り出すことができます。しかし、それは裏を返せば、その全てを、自分自身で「意思決定」しなければならない、ということです。

個人開発において、エンジニアである私が費やすべき最も貴重なリソースは、「機能ロジックを考える」ための、脳の集中力です。デザインの細部について悩み始める時間は、その貴重なリソースを確実に奪っていきます。これは、プロジェクトの遅延に直結する、非常に大きなリスクです。

HTMLの肥大化と可読性の低下

ユーティリティクラスを多用すると、HTMLは必然的に、このようになります。

<div class="p-6 max-w-sm mx-auto bg-white rounded-xl shadow-lg flex items-center space-x-4">...</div>

これは、いわゆる「クラスのスープ(ごった煮)」状態です。もちろん、Vueコンポーネントとして適切に分割すれば、ある程度は管理できます。しかし、それでもなお、ロジック(Vueのディレクティブなど)と、スタイリング(大量のクラス)が、同じファイルに混在することになります。

PjMの視点から見ると、これは長期的なメンテナンス性において、懸念が残ります。半年後、自分自身がこのコードを見返した時に、この大量のクラスの中から、本当に重要な構造を瞬時に把握できるでしょうか?私は、その自信がありませんでした。

「車輪の再発明」の多さ

「正規表現ストッカー」には、高機能なテキストエリアや、パターンを一覧表示するテーブル、設定用のダイアログといった、比較的複雑なUIが必要です。

Tailwind CSSを使う場合、これら全てを、ユーティリティクラスを組み合わせて、ゼロから自作する必要があります。もちろん、Headless UIのようなライブラリと組み合わせることで、その手間を軽減することは可能です。しかし、それでもなお、コンポーネントライブラリが提供してくれるような、リッチな機能を備えたデータテーブルを自作するのは、個人開発のスピード感を大きく損なう「車輪の再発明」だと、私は判断しました。

私がPrimeVueを「選んだ」理由

一方で、PrimeVueは、これらの課題を全て解決し、今回のプロジェクトの目標(MVPの最速リリース)を達成するための、最高の選択肢だと確信しました。

圧倒的な開発スピード

PrimeVueを使えば、UIの実装は、必要なコンポーネントを公式ドキュメントから探し、呼び出すだけで完了します。

<Textarea v-model="value" autoResize rows="5" cols="30" />

この一行だけで、自動リサイズ機能付きの、美しいテキストエリアが手に入ります。私が本当に集中すべきは、このv-modelに渡すデータvalueを、どうやってリアクティブに処理するか、というアプリケーションの「本質的な」ロジックです。UI実装にかかる時間を劇的に短縮し、思考を本質的な部分に100%集中させることができる。これが、最大のメリットです。

デザイン品質の担保

正直に言って、私にはプロのデザイナーのような、洗練されたデザインセンスはありません。しかし、PrimeVueを使えば、プロが設計した、美しく、そして全てのコンポーネントで一貫性のあるデザインが、最初から手に入ります。

これにより、私が作ったツールは、個人開発にありがちな「手作り感」から脱却し、ユーザーが安心して使える、プロフェッショナルな外観を持つことができます。これは、サービスの信頼性を担保する上で、非常に重要な要素です。

機能の豊富さ

高機能なデータテーブル、ファイルアップロード、カレンダー、ツリービュー…。PrimeVueには、自作すると数週間、あるいは数ヶ月かかるような、非常にリッチなコンポーネントが、最初から全て用意されています。

これは、MVP開発においてはもちろんのこと、将来的に「正規表現ストッカー(仮)」をPro版へと拡張していく上で、計り知れないほどの武器になります。

【PjM視点】これは「思想」の選択である

ここまで読んで、私が単に「楽をしたいから」PrimeVueを選んだ、と思われたかもしれません。しかし、これは、PjMとしての、明確な「思想」の選択です。

技術選定とは、単なる機能比較ではありません。それは、「このプロジェクトにおいて、何を最も重視し、何を犠牲にするか」という、トレードオフの意思決定なのです。

  • Tailwind CSSを選ぶ時:それは、「デザインの独自性」を、他の何よりも優先するという思想の表れです。プロジェクトに専属のデザイナーがいて、ブランドイメージに沿った、極めてオリジナルなUIを、細部までこだわり抜いて作りたい。その目的のためなら、実装速度や、HTMLの可読性といった要素は、ある程度犠牲にしても良い、という判断です。
  • PrimeVueを選ぶ時:それは、「ユーザーへの価値提供のスピード」を、最優先するという思想の表れです。個人開発やスタートアップのように、リソースが限られている中で、デザインの細部にこだわる時間があるなら、その時間を使って、ユーザーの課題を解決するコアな機能を一つでも多く実装し、一日でも早く市場に投入すべきだ、という判断です。

【さらなる高みへ】コンポーネント指向開発をマスターするための一冊

ここまで、私がPrimeVueという「コンポーネントライブラリ」を選んだ理由を語ってきました。このアプローチの核心は、「UIを、再利用可能な『部品』の組み合わせとして捉える」という、コンポーネント指向の考え方にあります。

そして、この考え方を本当に自分のものにし、PrimeVueのようなツールを最大限に使いこなすためには、その土台となるフレームワーク、Vue.jsそのものへの深い理解が不可欠です。

私が、Vue 3の学習において、そして今でも時々立ち返る、まさに「教科書」と呼ぶべき一冊があります。 それが、『Vue.js 3 フロントエンド開発の教科書』です。

この本の素晴らしい点は、単にVueのAPIをリストアップするだけでなく、「Composition APIの具体的な使い所」「Piniaを使った状態管理のベストプラクティス」「TypeScriptとの組み合わせ方」といった、現代のフロントエンド開発に必須の実践的な知識を、豊富なサンプルコードと共に、体系的に解説してくれる点にあります。

PjMとして、私が技術選定の議論に参加する際、この本から得た知識は、エンジニアとの対話を、より深く、そして建設的なものにするための、強力な武器となっています。

もし、あなたがコンポーネントライブラリの力を、さらに引き出したいと願うなら、その根幹にあるフレームワークの思想と実践を、この本から学んでみることを強くお勧めします。

Vue.js 3 フロントエンド開発の教科書

まとめ

Tailwind CSSも、PrimeVueも、どちらもそれぞれの思想に基づいた、素晴らしいツールです。そこに優劣はありません。

しかし、プロジェクトの特性、チームのスキルセット、そして何より、「自分たちは、今、何を成し遂げるべきなのか」という目的によって、最適なツールは変わります。

「自分のプロジェクトでは、何を犠牲にして、何を守るべきか?」

このPjM的な視点を持つことが、無数の選択肢の中から、あなたのプロジェクトを成功に導く、唯一の正しい技術選定を可能にするのです。