
【後悔しないための「SES」の働き方ガイド】正社員とフリーランス、本当におすすめなのはどっち?
こんばんは!IT業界で働くアライグマです!
以前の記事で、クライアントの成果物に責任を負う「請負契約のフリーランス」と、労働力を提供する「SES」の根本的な違いについて解説しました。
知らないと損するSESとフリーランスの本質的な違い|契約とキャリアパスをPjMが徹底解説
しかし、IT業界の現場、特に客先常駐のプロジェクトでは、さらに複雑な現実があります。それは、同じチームで、同じような仕事をしているのに、一方は「SES企業の正社員」で、もう一方は「SES型のフリーランス」であるという状況です。
傍から見れば同じように見えるこの二者ですが、その契約背景、収入、リスク、そしてキャリアパスは全く異なります。この違いを理解しないまま「フリーランス」という言葉の響きだけで道を選ぶのは、非常に危険です。特にこの選択は、一度選ぶと後戻りが難しい、キャリアにおける不可逆な分岐点となり得ます。
今回の記事では、PjMとして多くのエンジニアの契約形態を見てきた視点から、この「SES正社員」と「SES型フリーランス」という、似て非なる二つの働き方を徹底的に解剖します。どちらがあなたにとって最適な選択なのか、その判断材料を提供できれば幸いです。
大前提:「働き方」は同じ、だが「立場」が全く違う
まず押さえるべき大前提は、現場での「働き方」は酷似しているという点です。
- 勤務場所: クライアント先のオフィスに常駐する。
- 業務内容: クライアントの指示のもとで、システムの開発・運用・保守などを行う。
- 時間管理: クライアントの勤務時間に合わせ、月次の稼働時間で精算される。
プロジェクトマネージャーの視点から見ても、日々の業務においては両者の区別がつかないこともあります。同じ会議に出席し、同じコードを書き、同じ進捗報告をする。例えるなら、同じ厨房で働く二人の料理人のようなものです。一方はレストランに正社員として雇用されたシェフ、もう一方は特定の期間だけ腕を振るうために雇われたゲストシェフ。日々の仕事は同じでも、給与体系、雇用の安定性、そして将来のキャリアは全く別のレールの上にあります。
この根本的な違いこそが、一方が「会社員」であり、もう一方が「個人事業主」であるという、契約上の「立場」の違いです。これ以降に解説する全てのメリット・デメリットは、このたった一つの「立場の違い」から派生するものです。
徹底比較!SES正社員 vs SES型フリーランス
両者の違いをより明確にするため、具体的な項目で比較してみましょう。
項目 | SES正社員 | SES型フリーランス |
契約形態 | 所属企業との雇用契約 | エージェント等との業務委託契約(準委任) |
収入の安定性 | 高い(月給制。待機期間も給与発生) | 低い(契約が切れれば収入ゼロ) |
収入のポテンシャル | 低い(会社の給与テーブルとマージンによる) | 高い(市場価値が単価に直結しやすい) |
福利厚生 | あり(社会保険、厚生年金、有給休暇など) | なし(国民健康保険・国民年金を全額自己負担) |
社会的信用 | 高い(ローンやカードの審査に通りやすい) | 低い(審査が厳しくなる傾向) |
営業・事務作業 | 不要(会社が全て行う) | 必要(営業はエージェント、経理・確定申告は自力) |
案件選択の自由度 | 低い(会社の都合や営業力に依存) | 高い(エージェントからの複数提案を比較検討できる) |
教育・研修 | あり(会社が提供する場合が多い) | なし(スキルアップは全て自己投資) |
責任の範囲 | 限定的(最終責任は会社が負う) | 無限(事業上の全責任を個人で負う) |
この表が示すのは、「ローリスク・ローリターン」の安定した会社員か、「ハイリスク・ハイリターン」の自由な事業主か、という明確なトレードオフです。どちらが良い悪いではなく、どちらの生き方を自分が望むのか、という哲学的な問いに近いかもしれません。
PjMが見る、それぞれの「リアル」と「リスク」
表の比較だけでは見えてこない、現場でのリアルな実態と、それぞれが抱えるリスクについて、さらに深く解説します。
SES正社員のリアル:守られているが、会社の枠を超えることはない
SES正社員であることの最大の価値は、「セーフティネット」の存在です。万が一、参画していたプロジェクトが急に終了しても、次の案件が見つかるまでの「待機期間」中も会社から給与が支払われます。この期間は、精神的な安寧をもたらす一方で、会社によっては次の案件を早く決めるよう無言のプレッシャーを感じたり、希望しない案件を勧められたりするケースもあります。
しかし、その安定性には対価が伴います。それが「収入の上限」です。あなたの市場価値が月単価100万円だったとしても、その金額がそのままあなたの収入になるわけではありません。クライアントが支払う金額から、所属企業の利益(マージン)が差し引かれます。このマージン率は、営業費用、本社スタッフの人件費、事務所の家賃、そして会社の利益として計上され、エンジニア個人には開示されないことがほとんどです。あなたの給与は、あくまで会社の給与テーブルと人事評価制度に基づいて決まり、個人の市場価値と直接連動するわけではないのです。
SES型フリーランスのリアル:高単価の裏にある「全責任」
SES型フリーランスの魅力は、何と言っても高い報酬です。会社員時代の給与と比較して、手取り額が大幅に増えるケースも少なくありません。しかし、その高単価は「全ての責任を自分で負う」ことへの対価です。
会社員と違い、あなたを守ってくれるものは何もありません。案件が途切れるリスク、病気や怪我で働けなくなるリスクは全て自己責任です。インフルエンザで一週間休めば、その分収入は直接減少します。常に契約終了日が視野に入っており、次の案件を探し続けるという精神的なプレッシャーは想像以上です。
だからこそ、成功しているフリーランスは稼いだお金をただ貯蓄するだけでなく、自分自身と事業への「投資」を欠かしません。
例えば、健康維持と生産性向上のための投資は非常に重要です。長時間座って作業するエンジニアにとって、身体への負担を軽減するオフィスチェアは、単なる備品ではなく、収益性を左右する重要な事業投資です。
日本のオフィス家具メーカーであるオカムラが製造するこの椅子は、人それぞれの骨盤の傾きにフィットする独自の機能「バックカーブアジャスト機構」が特徴です。身体に合わない椅子で腰を痛め、パフォーマンスが落ちるリスクを考えれば、こうした投資は決して高くないと言えるでしょう。
また、増えた収入をどう管理し、どう増やしていくかという金融リテラシーも必須となります。会社員時代と同じ感覚でお金を使っていると、あっという間に資金は底をつきます。特に、近年始まったインボイス制度への対応は、多くのフリーランスにとって新たな課題です。
こうした最新の税務知識については、専門家が解説する信頼できる一冊を参考にすることをおすすめします。
この書籍は、フリーランスが直面する消費税とインボイス制度の疑問について、図解を交えながら非常に分かりやすく解説しています。
キャリア戦略:どちらを選ぶべきか?
結局のところ、どちらの道が正解ということはありません。あなたのキャリアステージとライフプランによって、最適解は変わります。
まずは安定と経験を求めるなら「SES正社員」
- 新卒やIT業界未経験の方
- 家庭を持ち、収入の安定を最優先したい方
- 営業や事務作業が苦手で、開発に専念したい方
- 事業運営のリスクは取らず、純粋な技術者として生きたい方
上記に当てはまる場合、まずはSES正社員としてキャリアを築き、安定した環境でスキルと経験を蓄積することをおすすめします。福利厚生の恩恵を受けながら、様々なプロジェクトを経験できるのは大きな利点です。
スキルと自己管理に自信があり、収入を最大化したいなら「SES型フリーランス」
- 特定の技術分野で高い専門性を持つ、3年以上の経験者
- 収入の不安定さというリスクを許容できる方
- 徹底した自己管理能力と、学習意欲を持つ方
- エンジニアであると同時に、一人の経営者としてのマインドセットを持てる方
これらの条件を満たすなら、SES型フリーランスに挑戦することで、収入と働き方の自由度を飛躍的に高められる可能性があります。自身のスキルを武器に、単価交渉を行い、キャリアの舵を自分で切る。その醍醐味は、会社員では決して味わえないものでしょう。
まとめ
「SES正社員」と「SES型フリーナーランス」。現場での働き方は似ていても、その本質は「安定と保障の会社員」と「自由と自己責任の事業主」という、全く異なる生き方です。
重要なのは、言葉のイメージに流されず、それぞれのメリットとデメリット、そして何より「自分はどちらの立場を取りたいのか」を深く考えることです。5年後、10年後、自分はどんな働き方をしていたいのか。安定した組織の一員として貢献していたいのか、それとも独立したプロフェッショナルとして市場価値を問い続けていたいのか。
その問いへの答えが、今あなたが選ぶべき道を示してくれるはずです。契約書にサインをする前に、自分がどちらのレールの上を歩もうとしているのかを正確に理解し、納得のいくキャリアを選択してください。