
私がPhpStormよりターミナルの「Claude Code」を開く時間が増えた3つの理由
こんばんは!IT業界で働くアライグマです!
長年、PHPを使ったWebアプリケーション開発の現場で、私の相棒は常にJetBrains社の「PhpStorm」でした。その強力無比なコード補完、堅牢なリファクタリング機能、そしてXdebugと連携したグラフィカルなデバッグ機能は、まさにPHP開発における”王様”であり、私自身、数え切れないほどのプロジェクトをそのサポートのもとで完遂させてきました。今でも、大規模なプロジェクトの全体像を把握したり、複雑なクラス構造をリファクタワーキングしたりする際には、迷わずPhpStormを立ち上げます。
しかし、ここ数ヶ月、私の開発ワークフローに、ある静かで、しかし明らかな変化が訪れていることに気づきました。重量級のIDEを起動するよりも先に、私の手は、軽いターミナルのウィンドウを開き、そこに「Claude Code」と呼ぶべき新たな相棒を呼び出す時間が増えているのです。
これは、PhpStormが劣っているという話では決してありません。むしろ、開発タスクの性質がAIによって変化し、それに伴い、私たちの「最適な道具」もまた進化している、という証左なのかもしれません。
この記事では、なぜ私が、あの強力なPhpStormよりもターミナル上の「Claude Code」を開く時間が増えたのか、その具体的な3つの理由について、日々の開発の現場で感じているリアルな変化を基にお話しします。
理由1:思考を分断しない「速度」と「集中」
開発者にとって、最も価値のある資源は「集中力」、いわゆるフロー状態です。一度この状態に入れば、驚くほどの速度でタスクをこなせますが、ほんの僅かな中断で、その糸はあっけなく切れてしまいます。ターミナル上のAIは、この集中力を維持する上で、IDEに対して明確な優位性を持っています。
起動から実行までのマイクロフリクションの排除
PhpStormは素晴らしいIDEですが、大規模なプロジェクトを開く際の起動時間や、インデックス作成にかかる時間は、決してゼロではありません。「ちょっとした修正のために、IDEが完全に使えるようになるまで数十秒待つ」という体験は、誰もが経験していることでしょう。
一方で、ターミナルは瞬時に起動します。そして、そこにいるAIは、必要な時に呼び出し、タスクが終わればすぐに消える、極めて軽量でオンデマンドな存在です。
「この関数のユニットテストを1つだけ追加したい」「設定ファイルを少しだけ書き換えたい」「エラーログの原因を特定したい」
こうした短時間で完結するタスクのために、重量級のIDEを起動するのは、少し大げさに感じられるようになりました。ターミナル上のAIは、こうした日々の無数の「マイクロフリクション」を完全に取り除き、思考の速度を落とすことなく、即座に実行に移すことを可能にしてくれます。
コンテキストスイッチからの解放
私の普段の開発風景を思い返すと、PhpStormでコードを書きながらも、ターミナルの別タブでGitを操作し、さらに別のタブでDockerコンテナのログをtailし、時にはSSHでサーバーに接続する…といったように、複数のウィンドウやタブを絶えず行き来していました。
ターミナルをベースにしたAIとの対話は、このコンテキストスイッチを劇的に減らしてくれます。今書いているPHPのコードについてAIと対話した後、その流れのまま「今の変更内容で、feat: 〇〇機能の追加というコミットメッセージを生成して」と依頼し、提案されたGitコマンドを実行する。すべてが同じウィンドウ、同じ対話の中で完結します。このシームレスな体験は、集中力の維持に絶大な効果をもたらします。
理由2:IDEの枠を超える「越境性」と「文脈理解」
PhpStormが「PHPの専門家」であるならば、ターミナル上のAIは「開発プロセス全体のパートナー」です。これが、私がAIとの対話をターミナルで行う、二つ目の大きな理由です。
PHPの専門家から、開発全体のパートナーへ
私の仕事は、PHPのコードを書くだけではありません。Dockerコンテナのログを監視し、Nginxの設定を微調整し、デプロイ用のシェルスクリプトを修正し、npmパッケージの依存関係を解決することもあります。PhpStormはもちろんこれらのファイルも編集できますが、その専門領域はあくまでPHPやJavaScriptです。
一方、ターミナルは、これら全てのツールが息づく場所です。ターミナル上のAIは、docker-compose.ymlの内容を理解し、nginx.confの文法エラーを指摘し、シェルスクリプトのバグを修正し、そしてLaravelの新しい機能を実装する、という領域を横断(越境)したサポートを、一つの連続した文脈の中で提供してくれます。
ファイルを横断した対話的なデバッグ
Xdebugを使ったPhpStormのステップ実行デバッグは、今でも強力な武器です。しかし、原因がどこにあるか分からない複雑な問題に直面した時、AIとの対話的なデバッグが驚異的な力を発揮します。
「ユーザーがフォームを送信すると500エラーが返ってくる。これがNginxのアクセスログ、これがLaravelのログ、そしてこれが該当するControllerのコードだ。考えられる原因は何?」
このように、複数の情報源(ログ、コード)を同時に提示し、AIに相関関係を分析させることで、人間が一つ一つブレークポイントを置いて探していくよりも、遥かに早く問題の核心にたどり着けるケースが増えてきました。
理由3:「機能」起点から「意図」起点のワークフローへ
これが、私が感じている最も本質的な変化です。PhpStormのような従来のIDEは「機能(Feature)」を起点に操作しますが、AIとの対話は「意図(Intent)」を起点にします。
IDEの「メニューを探す」時間からの解放
PhpStormでメソッドを抽出するリファクタリングを行う場合、私たちは「①コードを選択し、②右クリックし、③『リファクタリング』メニューを探し、④その中の『メソッドの抽出』を選ぶ」といった手順を踏みます。これは、私たちが「メソッドの抽出」という機能の存在と、その場所を知っていることが前提のワークフローです。
しかし、ターミナル上のAIに対しては、ただ自分の「意図」を伝えるだけです。
「このロジックを、isOrderProcessableという名前のプライベートメソッドとして抽出して」
これだけで、AIが最適なリファクタリングを実行してくれます。「どうやるか(How)」をツールに任せ、私たちは「何をしたいか(What)」に集中できる。これは、開発における認知負荷を劇的に下げる、根本的なパラダイムシフトです。
PjMとしての「タスクの言語化」とのシナジー
プロジェクトマネージャーとして、私はJiraやBacklogといったツールに「〇〇の機能を実装する」「△△のバグを修正する」といった形で、開発タスクを自然言語で記述します。この「言語化されたタスク」と、自然言語でAIに指示を出すワークフローは、驚くほど親和性が高いのです。
チケットに書かれた要件定義や仕様を、そのままAIへの最初のプロンプトとして投げかける。そして、AIとの対話を通じて実装を進めていく。タスク管理ツールと開発環境が、自然言語を介してシームレスに繋がるこの感覚は、PjMと開発者の両方の役割を持つ私にとって、非常に効率的で、心地よいものなのです。
まとめ:PhpStormが不要になる日ではない、共存の時代の始まり
誤解しないでいただきたいのは、この記事はPhpStormの終わりを告げるものでは全くない、ということです。プロジェクト全体の静的解析、複雑なクラス階層の可視化、そして腰を据えたステップ実行デバッグなど、重量級IDEが持つ鳥の目のような視点は、今後も必要不可欠です。
しかし、日々の開発タスクの多く、特に「明確な目的を持った短時間の作業」においては、ターミナルでAIを呼び出す方が、遥かに速く、快適なケースが増えてきました。
これは、どちらか一方を選ぶという話ではありません。開発者のツールボックスの中に、スパナやドライバーと並んで、「対話型AI」という名の強力な電動工具が加わった、ということなのです。そして、その電動工具を使う場所として、あらゆるツールと連携可能なターミナルが、最高の作業台となりつつあります。
PhpStormという最高の作業部屋を持ちつつも、日常のちょっとした作業は、ガレージにある万能作業台(ターミナル+AI)で済ませてしまう。そんな、柔軟で効率的な「共存の時代」が、すでに始まっているのです。