「その他大勢の30代エンジニア」で終わらないための、ObsidianとAIツールを使った「一人プロジェクト」の始め方

こんばんは!IT業界で働くアライグマです!

30歳という節目を迎え、あるいは目前にして、ふと自分のキャリアに漠然とした不安を感じることはないでしょうか。20代の頃は、がむしゃらに新しい技術を学び、コードを書く量そのものが、自分の成長と価値に直結していた。しかし、30代になると、周りには同じように経験を積んだエンジニアが溢れ、「技術力」だけでは、その他大勢から抜け出すのが難しくなってきた…。

PjMとして多くのエンジニアと関わる中で、このような「キャリアの踊り場」に立ち尽くす、優秀な中堅エンジニアを数多く見てきました。

もし、あなたが「その他大勢」で終わりたくないと願うなら、今こそ、コードを書く能力に加えて、「自分自身をマネジメントし、独自の価値を創造し、発信する能力」を身につけるべき時なのかもしれません。

今日は、そのための最も手軽で、最も強力な武器として、ObsidianとAIツールを活用した「一人プロジェクト」の始め方について、私の全思考プロセスを公開します。

なぜ、30代エンジニアに「一人プロジェクト」が必要なのか?

「ただでさえ本業が忙しいのに、なぜわざわざ個人でプロジェクトを?」と思われるかもしれません。しかし、PjMの視点から見ると、この「一人プロジェクト」は、あなたの市場価値を飛躍的に高める、極めて戦略的な意味を持ちます。

ポートフォリオを超える「実践録」

多くのエンジニアが、転職活動のためにポートフォリオとして完成品を見せます。しかし、本当に評価されるべきは、その裏側にある思考のプロセスです。「なぜこの技術を選んだのか」「どんな課題に直面し、どう乗り越えたのか」「どうやってプロジェクトを計画し、完遂させたのか」。

「一人プロジェクト」をブログやGitHubで公開することは、単なる完成品(What)だけでなく、あなたの思考プロセス(Why, How)そのものを記録した、何物にも代えがたい「実践録」となるのです。

技術の「点」を「線」にする力

日々の業務で学ぶ技術は、どうしても断片的な「点」になりがちです。データベースのチューニング、フロントエンドの新しいライブラリ、APIの設計…。それら一つ一つは、あなたのスキルです。

しかし、「一人プロジェクト」は、それらのバラバラな技術(点)を、「ユーザーに価値を届ける」という一つの目的のために繋ぎ合わせ、体系的な「線」や「面」へと昇華させる、最高の機会となります。この経験こそが、あなたを単なる「作業者」から、プロダクト全体を見通せる「開発者」へと成長させます。

「マネジメント能力」の動かぬ証拠

たとえ役職がなくても、自分自身という最も気まぐれなリソースを管理し、一つのプロジェクトを計画通りに完遂させられる能力は、優秀なマネジメント能力の動かぬ証拠です。将来、あなたがリーダーやPjMを目指すのであれば、この経験は、どんな研修よりも雄弁にあなたのポテンシャルを物語ってくれるでしょう。

Obsidian:あなたの「一人作戦司令室」

「一人プロジェクト」を推進する上で、母艦となるのがObsidianです。なぜなら、Obsidianは単なるノートアプリではなく、あなたの思考と実行を司る「作戦司令室」として機能するからです。その具体的な活用法を見ていきましょう。

アイデアの孵化器としてのデイリーノート

全てのプロジェクトは、些細なアイデアの種から始まります。Obsidianのデイリーノート機能は、その種を育てるための、最高の「孵化器」です。

朝の通勤中、仕事の合間、就寝前…。ふと頭に浮かんだ「こんなツールがあったら便利かも」「あの技術、個人開発で試してみたいな」といった断片的なアイデアを、その日のデイリーノートに、とにかく書き留めておきます。例えば、私の場合、#idea というタグをつけて、- [ ] 正規表現のパターンを保存できるツール のように記述します。日付と紐付いているため、「いつ、自分は何を考えていたのか」を後から振り返ることができ、#idea タグで検索すれば、アイデアの種だけを一覧で見ることも可能です。

知識の武器庫としての第二の脳

プロジェクトを進める上では、様々な技術調査が必要になります。参考になった技術ブログ、公式ドキュメントの重要な一節、エラーの解決策…。これらを、ただブックマークするだけでは、知識は蓄積されません。

Obsidianに、自分の言葉で要約し、関連するノート同士をリンク付けして保存していくのです。例えば、「[[Laravel Sanctum]]」というノートを作成し、その中で「[[SPA認証]]」や「[[APIトークン認証]]」といった言葉にリンクを貼る。すると、今度は「SPA認証」のノートを開いた時に、「Laravel Sanctum」のノートからリンクされていることが分かります。このように、知識が双方向のネットワークとして繋がり、一つの情報が別の情報を呼び覚ます、まさに「第二の脳」が構築されていきます。これが、いざという時にあなたを助ける「知識の武器庫」となるのです。

プロジェクトの航海図としてのタスク管理

以前の記事でも紹介しましたが、ObsidianはDataviewやTasksといったプラグインと組み合わせることで、強力なプロジェクト管理ツールになります。

_Projects/PocketNeuron/ というフォルダを作り、その中に 00_Roadmap.md, 01_Backlog.md, 02_MeetingNotes/ といった形で情報を集約します。そして、プロジェクトのトップページである PocketNeuron.md に、Dataviewクエリを記述します。

TABLE status, due FROM "_Projects/PocketNeuron" WHERE type = "task" and status != "done" SORT due ASC

こうすることで、このページを開くだけで、「Pocket Neuron」に関する未完了のタスクが期日順に一覧表示される、あなただけのプロジェクトダッシュボードが完成します。仕様書も、議事録も、全てがこのObsidianという一つの場所に集約され、リンクで繋がっている。この情報の一元化が、思考の散逸を防ぎ、プロジェクトの推進力を維持する上で、決定的に重要なのです。

AIツール(Cursorなど):あなたの「一人チーム」

かつては、これら全てを文字通り「一人」でやるしかありませんでした。しかし、現代の私たちには、AIという強力な「仮想チームメンバー」がいます。AIを単なる効率化ツールではなく、役割を与えたチームメンバーとして活用するのです。

AIを「壁打ち相手のジュニアエンジニア」として使う

新しい機能の設計に行き詰まった時、あるいは技術的な選択に迷った時、AIにこう問いかけます。「ユーザー認証機能を作りたいんだけど、実装方法としてCookie認証とトークン認証の2つの案がある。それぞれのメリット・デメリットを、具体的なユースケースを交えながら、初心者の僕にも分かるように説明してくれないか?」。

AIは、あなたが見落としていた視点や、最新のベストプラクティスを提示してくれるでしょう。それはまるで、あなたが問いかければいつでも素直な意見を返してくれる、優秀な後輩とペアプロしているような感覚です。この「対話」を通じて、あなた自身の思考も整理され、より良い意思決定ができるようになります。

AIを「優秀なアシスタント」として使う

仕様書のドラフト作成、テストコードの雛形生成、コミットメッセージの要約、さらにはブログ記事の草稿まで。これらは全て、AIに任せられるタスクです。

例えば、あなたが書いた議事録のテキストをAIに渡し、「この議事録から、決定事項と、各担当者のToDoリストを抜き出して、Markdown形式でまとめて」と指示するだけで、面倒な議事録整理の仕事は一瞬で終わります。

あなたは、これらの「作業」から解放され、「何を作るべきか」「どの技術を選択すべきか」といった、より上位の、人間にしかできない意思決定に、貴重な時間と集中力を注ぐことができるようになります。

まとめ:自分という「プロダクト」の、PjMになれ

30代エンジニアのキャリア戦略とは、もはや新しいプログラミング言語を一つ学ぶことだけでは、十分ではないのかもしれません。

それは、「自分」という名前のプロダクトの、あなたがプロジェクトマネージャーになることです。

自分のスキルを棚卸し(現状分析)、市場での価値を分析し(競合調査)、目標を設定し(ロードマップ作成)、Obsidianという作戦司令室で計画を立て(タスク管理)、AIという名の優秀なチームメンバーと共に、プロダクト(=一人プロジェクト)を開発し、世に問いかける。

この「一人プロジェクト」というサイクルを回し続けることこそが、「その他大勢」のエンジニアから抜け出し、代替不可能な価値を持つ、市場から真に求められるプロフェッショナルへとあなたを成長させてくれる、最も確実で、最もエキサイティングな道筋なのだと、私は信じています。

この記事が、あなたの輝かしい「一人プロジェクト」の、最初の一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。