米中関税緩和がIT業界に与える影響

こんばんは!IT業界で働くアライグマです!

プライベートでは二人の娘の父親でもあり、子供たちの未来のためにも世界の平和と安定を願う日々です。

さて、国際ニュースに目を向けると、「米中関係」の動向が私たちの生活やビジネスに大きな影響を与える重要なテーマであることは論を俟ちません。その中でも特に「関税」の問題は、長年にわたり両国間の火種の一つとなってきました。もし、この複雑に絡み合った米中間の関税が「緩和」されるという方向に舵が切られた場合、我々IT業界、そして日々のプロジェクトやコードと向き合うPjMやエンジニアの仕事に、具体的にどのような影響が考えられるのでしょうか?

普段は技術トレンドやプロジェクトの進捗管理に注力している私ですが、今日は少しマクロな視点から、経済の大きな動きが私たちの身近なITの世界、そして個人のキャリアにどう結びつくのかを考察してみたいと思います。

米中関税の現状と「緩和」シナリオの前提

まず、本題に入る前に、現在の米中関税の状況について触れておく必要があります。2025年5月現在、米中間の関税を巡る状況は依然として複雑であり、全面的な「緩和」に向けた大きな動きは限定的というのが私の認識です。特定の品目で見直しが行われたり、一部の猶予措置が取られたりすることはあっても、対立の根幹にある経済・技術覇権争いや安全保障上の懸念は根強く残っています。

したがって、本記事では、仮に今後、何らかの要因(例えば、世界的なインフレ抑制の必要性、地政学的な変化、あるいは両国間の戦略的判断など)によって、米中間で広範な「関税緩和」が進展した場合に何が起こり得るか、というシナリオに基づいて考察を進めていきたいと思います。

これまでの米中関税の経緯(簡単なおさらい)

ご存知の通り、米中間の関税引き上げ競争は、主に2018年頃から顕著になりました。当初は鉄鋼やアルミニウムといった分野から始まりましたが、次第にハイテク製品、特に半導体、通信機器、コンピュータ部品など、IT業界に直結する多くの品目に対象が拡大されました。これにより、多くの企業がサプライチェーンの見直しやコスト増への対応を迫られたのは記憶に新しいところです。

バイデン政権下でも、前政権の対中関税の多くは維持されつつ、一部見直しや再編が行われてきましたが、根本的な対立構造に大きな変化があったとは言えません。

関税緩和がIT業界にもたらす光と影

では、仮にこの緊張状態が和らぎ、「関税緩和」が実現した場合、IT業界にはどのような影響が考えられるでしょうか? プラス面とマイナス面、両方から見ていきましょう。

【光】ハードウェアコストの低減とサプライチェーンへの期待

最も直接的かつ大きな影響が期待されるのは、ITハードウェアのコスト低減でしょう。

  • 部品調達コストの低下: 中国で生産・加工される半導体、ディスプレイパネル、各種電子部品などに対する関税が引き下げられれば、これらの部品を調達するメーカーのコストは確実に下がります。
  • 完成品価格への波及: 部品コストの低下は、最終製品であるPC、スマートフォン、サーバー、ネットワーク機器などの価格にも反映される可能性があります。これは、私たち消費者にとっては嬉しいニュースですし、企業のIT投資意欲を刺激する要因にもなり得ます。
  • サプライチェーンの再構築: 関税引き上げを受けて進められてきた「脱中国依存」やサプライチェーンの多様化の動きが、関税緩和によって一時的にペースダウンするかもしれません。しかし、地政学的リスクを完全に無視することはできないため、多様化の流れが完全に逆行するとは考えにくいでしょう。

PjMとしては、プロジェクトで使用するサーバーインフラのコストや、開発チームが必要とするPCなどの機材調達コストが下がる可能性は歓迎すべき点です。これにより、プロジェクト予算の柔軟性が増したり、より高性能な機材を導入しやすくなったりするかもしれません。

【光】ソフトウェア・サービス業界への間接的な追い風

ソフトウェアやクラウドサービス自体に直接関税がかかるわけではありませんが、ハードウェア市場の動向は間接的に影響を与えます。

  • プラットフォームの普及促進: PCやスマートフォンが安価になれば、それらの上で動作するアプリケーションやサービスの市場は拡大しやすくなります。私が普段開発しているWebアプリケーション(PHP/Laravel/Vue3で作るようなシステム)や、PWA、Androidアプリにとっても、ユーザーがデバイスを手に取りやすくなることは間接的な追い風と言えるでしょう。
  • クラウドインフラコストへの微々たる影響?: データセンターで使用されるサーバーやネットワーク機器のコストが下がれば、長期的にはクラウドサービスの料金にもわずかながら影響が出る可能性も否定できません。しかし、これは多くの要因が絡むため、過度な期待は禁物です。

【影】国内産業保護の後退と競争激化(主に米国視点)

関税緩和は、メリットばかりではありません。特にこれまで関税によって保護されてきた(主に米国の)国内産業にとっては、厳しい状況が訪れる可能性があります。

  • 価格競争の激化: 安価な中国製品が再び市場に流入しやすくなることで、国内メーカーは激しい価格競争に晒される可能性があります。
  • 国内雇用の懸念: 国内製造業の競争力低下は、雇用にも影響を与えかねません。

これは主に米国側の視点ですが、日本企業にとっても、グローバル市場での中国製品との競争環境が変化する可能性はあります。

【影】技術覇権と安全保障の論点は変わらず

忘れてはならないのは、米中対立の根底には、単なる貿易不均衡だけでなく、技術覇権や国家安全保障を巡る深刻な競争があるという点です。

  • 特定技術・企業への規制は継続か: たとえ広範な関税が緩和されたとしても、5G通信技術、先端半導体、AI、量子コンピューティングといった戦略的に重要な分野においては、技術流出の防止や安全保障上の理由から、特定の中国企業や製品に対する輸出規制や投資制限といった措置は継続、あるいは形を変えて強化される可能性が高いと考えられます。
  • 関税以外の障壁: つまり、関税という経済的な障壁が一部取り払われたとしても、安全保障という別の論点から、IT製品や技術の自由な流通が完全に保証されるわけではないということです。

PjM/エンジニアとしての備えと視点

こうしたマクロな経済・国際情勢の変化に対して、私たちPjMやエンジニアはどのように向き合い、備えるべきでしょうか。

コスト変動への対応とプロジェクト計画

関税の動向は、ハードウェアの調達コストに影響を与えるため、プロジェクト計画、特に予算策定において考慮すべき要素となります。

  • 変動リスクの織り込み: PjMとしては、関税の変更によるコスト増減のリスクをある程度見越して、バッファを持たせた予算計画を立てる必要があるかもしれません。
  • コスト削減機会の活用: 逆に関税緩和によってコスト削減が見込める場合は、それを活用してプロジェクトのROI(投資対効果)を高める提案や、より高度なインフラ構成への投資などを検討できるチャンスにもなります。

サプライチェーンの多様化は引き続き重要課題

たとえ一時的に関税が緩和されたとしても、近年の経験から、特定の国や地域に過度に依存するサプライチェーンの脆弱性は明らかになりました。地政学的リスクは関税問題だけでなく、様々な形で顕在化する可能性があります。

PjMとして、あるいは技術選定に関わるエンジニアとして、部品調達やサービス利用において、コストだけでなく、供給の安定性やカントリーリスクも考慮した上で、サプライチェーンの多様化(例えば、マルチベンダー化や国産技術の採用検討など)を引き続き意識していく必要があるでしょう。

技術トレンドへの影響:中国製技術・製品との向き合い方

関税が緩和されれば、これまでコスト面で導入のハードルが高かった中国製のハードウェア、ソフトウェア、あるいは開発ツールなどが、価格的な魅力から再び選択肢として浮上してくるかもしれません。

しかし、エンジニアとしては、価格だけでなく、品質、セキュリティ、長期的なサポート体制、そして技術の透明性や開発元の信頼性などを総合的に評価する必要があります。特に、米中対立の根底にある技術覇権争いやデータセキュリティへの懸念を考えると、安易な採用はリスクを伴う可能性も否定できません。技術選定においては、オープンソースの活用や、コミュニティによる検証が進んでいるかなど、多角的な視点からの判断がより一層重要になります。

まとめ

「米中関税緩和」というシナリオは、もし実現すれば、IT業界にとって短期的にはハードウェアコストの低減やそれに伴う市場の活性化など、多くのプラスの側面をもたらす可能性があります。消費者にとっては製品が安価になり、企業にとってはIT投資がしやすくなるかもしれません。

しかし、その影響は単純なものではなく、国内産業への影響や、技術覇権・安全保障といった根深い問題は依然として残ります。関税という経済的な問題と、安全保障という政治的な問題は、複雑に絡み合っていることを理解しておく必要があります。

私たちPjMやエンジニアは、日々の業務に追われがちですが、このようなマクロな経済や国際情勢の動向が、自分たちの仕事、キャリア、そして開発しているプロダクトやサービスにどのような影響を与えるのかを常に意識し、広い視野を持つことが大切です。技術の進化だけでなく、その技術を取り巻く社会や経済の動きにもアンテナを張り、変化に柔軟に対応していく力が、これからの時代ますます求められるのではないでしょうか。

そして、一人の親として、このような国際間の対立が緩和され、子供たちが生きる未来がより平和で予測可能なものになることを心から願っています。