
SESフリーランスが知っておくべき税金と社会保険の基礎
こんばんは!IT業界で働くアライグマです!
常駐先のプロジェクトでスキルを発揮し、自由な働き方を実現できるSES(システムエンジニアリングサービス)契約のフリーランス。会社員時代とは異なる裁量権や高収入の可能性に魅力を感じる一方、避けて通れないのが「税金」と「社会保険」の問題です。会社員であれば、給与から天引きされ、会社がある程度手続きを行ってくれましたが、フリーランスはこれら全てを自分自身で管理し、納付する責任があります。
「確定申告って何から始めればいいの?」「健康保険や年金はどうなるの?」「どのくらい税金を払うことになるんだろう…」といった不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。特にフリーランスになりたての方にとっては、複雑で分かりにくいと感じるかもしれません。
この記事では、SESフリーランスとして活躍する(または目指している)あなたが最低限知っておくべき税金と社会保険の基礎知識について、分かりやすく解説していきます。正しい知識を身につけ、お金の不安を解消し、安心して仕事に集中できる環境を整えましょう。
フリーランスと会社員の違い:税金・社会保険の観点から
まず、最も大きな違いは、手続きと納付の主体が「会社」から「自分自身」に変わることです。
- 会社員:
- 所得税・住民税:会社が給与から源泉徴収(天引き)し、年末調整で過不足を調整。
- 社会保険(健康保険・厚生年金):会社と折半で保険料を負担し、給与から天引き。会社が手続きを行う。
- フリーランス(個人事業主):
- 所得税:自分で所得を計算し、確定申告を行って納付。
- 住民税:確定申告に基づき自治体が税額を計算。自分で納付。
- 消費税:条件(後述)を満たせば申告・納付が必要。
- 個人事業税:条件(後述)を満たせば納付が必要。
- 社会保険(国民健康保険・国民年金):自分で加入手続きを行い、保険料を全額自己負担で納付。
このように、フリーランスはお金に関する自己管理能力が非常に重要になります。
SESフリーランスが関わる主な「税金」
フリーランスエンジニアが主に支払うことになる税金の種類と、その概要を見ていきましょう。
所得税
所得税は、1年間(1月1日〜12月31日)の「所得」に対して課される国税です。「所得」とは、収入(売上)から必要経費を差し引いたものです。
所得 = 売上 – 必要経費
フリーランスは、この所得と税額を自分で計算し、原則として翌年の2月16日から3月15日までの間に「確定申告(かくていしんこく)」を行い、納税する必要があります。(※2025年5月現在、令和6年分の確定申告期間は終了しています。令和7年分の申告は令和8年に行います。)
確定申告には「青色申告(あおいろしんこく)」と「白色申告(しろいろしんこく)」の2種類があります。
- 白色申告: 事前の申請は不要で、簡易な帳簿付けで申告できます。
- 青色申告: 事前に「開業届」と「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要がありますが、最大65万円または55万円(電子申告等の要件あり)の特別控除を受けられるなど、節税面で非常に有利です。赤字を最大3年間繰り越せるメリットもあります。SESフリーランスであれば、まず青色申告を目指すことを強くおすすめします。
所得が多くなると、年の途中で予定納税(前年の税額に基づいて所得税を前払いする制度)が必要になる場合もあります。
消費税
消費税は、商品やサービスの販売に対して課される税金です。フリーランスも、基準期間(通常は前々年)の課税売上高が1,000万円を超えると「課税事業者」となり、消費税の申告・納付義務が生じます。 (開業1年目、2年目でも、特定期間の売上高によっては課税事業者になる場合があります。)
また、2023年10月から「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」が開始されました。課税事業者は、取引先(主に企業)からインボイス(適格請求書)の発行を求められるケースが一般的です。インボイスを発行するには、事前に税務署に登録申請し、「適格請求書発行事業者」になる必要があります。SESの取引先は企業が多いため、インボイス制度への対応は非常に重要です。免税事業者(売上1,000万円以下)の方も、取引先との関係でインボイス登録を検討する必要が出てくる場合があります。
住民税
住民税は、住んでいる都道府県および市区町村に納める地方税です。前年の所得に基づいて税額が計算され、確定申告を行っていれば、別途住民税の申告をする必要は基本的にありません。
税額決定通知書と納付書が、通常6月頃に市区町村から送られてきます。納付は年4回の分割払い(6月、8月、10月、翌年1月)または一括払いが一般的です。
個人事業税
個人事業税は、特定の事業(法定業種)を行っている個人事業主に対して、都道府県が課税する地方税です。ITエンジニア関連の業務(コンサルタント業、デザイン業など、契約内容による解釈の幅あり)は、課税対象となる場合があります。
ただし、年間290万円の事業主控除があるため、所得(売上 – 経費)からこの控除額を差し引いた金額がプラスになる場合に課税されます。納税が必要な場合は、通常8月頃に都道府県から納付書が送られてきます。
SESフリーランスが加入する主な「社会保険」
次に、フリーランスが加入する社会保険についてです。会社員時代の「健康保険」「厚生年金」とは異なります。
国民健康保険(国保 – こくほ)
フリーランスや自営業者などが加入する公的な医療保険制度です。退職後、会社員時代の健康保険の任意継続(最長2年)を選択しない場合は、原則として国民健康保険に加入します。
手続きは、お住まいの市区町村の役所で行います。保険料は、前年の所得や世帯の加入者数などに基づいて計算され、自治体によって保険料率が異なります。 会社員時代のように会社との折半はなく、全額自己負担となるため、負担額が大きく感じられることがあります。所得が増えると保険料も高くなる傾向にあります。
国民年金
日本国内に住む20歳以上60歳未満の全ての人が加入を義務付けられている公的な年金制度です。フリーランスは「第1号被保険者」に分類されます。
保険料は毎年見直され、令和7年度(2025年度)の国民年金保険料は月額17,510円です(2025年5月時点)。こちらも全額自己負担です。
国民年金だけでは、将来受け取れる年金額が会社員時代の厚生年金に比べて少なくなる傾向があります。そのため、後述するiDeCo(個人型確定拠出年金)や付加年金(月額400円の追加保険料で将来の年金額を増やせる制度)などを活用して、上乗せを検討することが推奨されます。
任意加入の保険(任意労災保険など)
フリーランスは基本的に、会社員が加入する雇用保険や労災保険の対象外です。ただし、業務中の事故や怪我に備えるため、「任意労災保険(特別加入制度)」に加入できる場合があります。ITエンジニアなどの職種も対象となる可能性があるため、万が一に備えたい場合は検討の価値があります。
節税と将来への備え
フリーランスは、税金や社会保険料の負担を自分で管理する必要がありますが、同時に様々な節税策や将来への備えを活用することも可能です。
経費計上の重要性
所得税は「売上 – 経費」で計算される所得に対して課税されます。したがって、事業に必要な支出を漏れなく経費として計上することが、最も基本的な節税策です。
- 自宅兼事務所の家賃・光熱費(按分計算)
- PC、ソフトウェア購入費
- 書籍代、セミナー参加費
- 交通費
- 打ち合わせの飲食代(一部) など
領収書やレシートは必ず保管し、日頃から帳簿付けを行う習慣をつけましょう。青色申告を行う場合は、複式簿記での記帳が65万円控除の要件となるため、会計ソフトの導入も検討しましょう。
青色申告の活用
前述の通り、青色申告特別控除(最大65万円/55万円)は非常に大きな節税メリットがあります。必ず申請し、要件を満たせるように準備しましょう。
所得控除の活用
所得税の計算では、所得からさらに「所得控除」を差し引くことができます。活用できる控除は積極的に利用しましょう。
- iDeCo(個人型確定拠出年金): 掛金が全額所得控除の対象となり、節税しながら将来の資産形成ができます。フリーランスにとって最優先で検討したい制度です。
- 小規模企業共済: フリーランスや小規模企業の経営者のための退職金制度。掛金が全額所得控除の対象です。
- 生命保険料控除、医療費控除、社会保険料控除(国民年金・国民健康保険料など)、寄付金控除(ふるさと納税含む) など
将来への備え:年金と貯蓄
国民年金は基礎的な保障です。iDeCoや付加年金、国民年金基金などを活用して、老後資金の上乗せを図りましょう。また、病気や怪我で働けなくなった場合に備え、民間の就業不能保険への加入や、十分な貯蓄・資産運用も重要になります。
注意点とよくある質問
- 開業届の提出: フリーランスとして事業を開始したら、税務署に「開業届」を提出するのが基本です。特に青色申告を行うためには必須です。
- SES契約と偽装請負: SES契約の中には、実態として指揮命令関係があり「偽装請負」とみなされるケースも問題視されています。契約内容や働き方については注意が必要ですが、税金・社会保険の手続きは、あくまで個人事業主として行う必要があります。
- 税理士への相談: 「確定申告が複雑で分からない」「節税方法をもっと知りたい」といった場合は、税理士に相談することを検討しましょう。費用はかかりますが、専門家のアドバイスは的確で、時間と手間の節約、そして適切な節税に繋がります。
まとめ
SESフリーランスとして働く上で、税金(所得税、住民税、消費税、個人事業税)と社会保険(国民健康保険、国民年金)の知識は、自分の生活と事業を守るために不可欠です。会社員時代とは異なり、全ての手続きと納付を自分で行う必要がありますが、同時に青色申告やiDeCo、経費計上など、活用できる制度や節税策も多く存在します。
まずは基本的な仕組みを理解し、日々の収入・支出をしっかり記録することから始めましょう。そして、利用できる控除制度を最大限に活用し、将来への備えも計画的に行うことが大切です。
分からないことや不安なことがあれば、税務署や年金事務所、市区町村の窓口、そして税理士などの専門家に相談することも有効な手段です。正しい知識を武器に、SESフリーランスとしてのキャリアを安心して歩んでいきましょう。