
Redis vs Memcached、結局どっちがいいの?
こんばんは!IT業界で働くアライグマです!
Webアプリケーションやサービスのパフォーマンスを向上させる上で、応答速度の改善は非常に重要な要素です。データベースへのアクセスはしばしばボトルネックとなりがちですが、その負荷を軽減し、ユーザー体験を向上させる強力な手段として「インメモリデータストア」の活用が挙げられます。
その代表格として長年比較され、多くのエンジニアを悩ませてきたのがRedisとMemcachedです。どちらも高速なインメモリデータストアですが、機能や特性には違いがあります。「結局、自分のプロジェクトにはどっちを使えばいいんだろう?」と感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、RedisとMemcachedのそれぞれの特徴を徹底的に比較し、どのような場合にどちらを選択するのがより適切なのか、具体的なユースケースを交えながら詳しく解説していきます。(2025年4月時点の情報も考慮しています。)
インメモリデータストアとは?なぜ必要か?
インメモリデータストアとは、データをハードディスクやSSDのような永続的なストレージではなく、コンピュータのメインメモリ(RAM)上に格納するデータ管理システムのことです。メモリはディスクに比べてデータの読み書き速度が桁違いに速いため、インメモリデータストアを利用することで、アプリケーションの応答速度を劇的に向上させることができます。
主な導入メリットとしては、
- データベース負荷の軽減: 頻繁にアクセスされるデータをメモリ上にキャッシュすることで、バックエンドのデータベースへの問い合わせ数を減らし、負荷を軽減します。
- レスポンス高速化: ユーザーからのリクエストに対して、低遅延でデータを返すことが可能になり、体感速度が向上します。
- セッション管理: Webサーバー間でユーザーのセッション情報を共有する基盤として利用できます。
などが挙げられ、高トラフィックなサービスやリアルタイム性が求められるシステムにおいて、インメモリデータストアは不可欠な技術となっています。
RedisとMemcachedの概要
まずは、今回比較する二つのインメモリデータストアについて、簡単に概要を見てみましょう。
Redisとは?
Redis (Remote Dictionary Server) は、多様なデータ構造をサポートする高機能なインメモリデータストアです。元々はシンプルなキー・バリューストアとして開発されましたが、リスト、セット、ハッシュ、ソート済みセットなど、様々なデータ型を扱える点が大きな特徴です。データの永続化やレプリケーション、Pub/Sub(出版/購読モデル)といった豊富な機能も備えており、単なるキャッシュとしてだけでなく、メッセージブローカーや簡易的なデータベースとしても利用されています。
Memcachedとは?
Memcached (Memory Cache Daemon) は、シンプルさと速度に特化した分散メモリキャッシュシステムです。設計思想として「シンプルであること」を重視しており、基本的なキー・バリューストア機能に絞られています。複数のサーバーにデータを分散させることでスケーラビリティを確保しやすく、特に大規模なWebサービスでのキャッシュ用途で広く採用されてきました。
徹底比較!Redis vs Memcached
それでは、具体的な項目でRedisとMemcachedを比較していきましょう。
データ構造(データ型)
Memcached: シンプルなキー・バリューストア
Memcachedが扱えるのは、基本的にキー(文字列)とバリュー(文字列やバイト列)のペアのみです。データはシリアライズして格納する必要があります。このシンプルさが、特定のユースケースにおいてはメリットにもなります。
Redis: 多様なデータ型
一方、Redisは文字列(String)に加え、リスト(List)、セット(Set)、ソート済みセット(Sorted Set)、ハッシュ(Hash)といった複雑なデータ構造をネイティブでサポートしています。さらに、Bitmap、HyperLogLog、Geospatialインデックスなどの高度なデータ型も利用可能です。
この違いがもたらす影響
Redisの多様なデータ型は、アプリケーション側でのデータ加工の手間を減らし、より複雑な処理をサーバーサイドで効率的に実行することを可能にします。例えば、ランキング機能(Sorted Set)、関連アイテムの管理(Set)、オブジェクト情報の格納(Hash)などが容易に実現できます。Memcachedで同様のことを行うには、アプリケーション側で多くのロジックを実装する必要があります。ユースケースの幅広さでは、明らかにRedisに軍配が上がります。
永続化(Persistence)
Memcached: 基本的に永続化機能なし
Memcachedは、基本的にデータをメモリ上でのみ保持し、永続化する機能は持っていません。サーバーが再起動されると、メモリ上のデータは失われます。あくまで一時的なキャッシュとしての利用が前提です。
Redis: 永続化オプションあり
Redisは、データの永続化に対応しています。指定した間隔でメモリ上のデータをディスクにダンプするスナップショット(RDB)方式と、書き込み操作をログファイルに追記していく追記型ファイル(AOF)方式の二つのオプションがあります。これにより、サーバー再起動後もデータを復元することが可能です。
キャッシュ用途以外への可能性
永続化機能を持つことで、Redisは単なるキャッシュサーバーとしてだけでなく、簡易的なデータストアとしても利用できる可能性が広がります。ただし、あくまでインメモリが主体であり、永続化は補助的な位置づけと考えるのが一般的です。
レプリケーションと高可用性
Memcached: 標準ではレプリケーション機能なし
Memcached自体には、データの複製(レプリケーション)や高可用性(HA)を実現する機能は組み込まれていません。冗長性を確保するには、クライアントライブラリ側での分散処理や、外部ツール(repcachedなど、ただし開発が活発でないものも多い)を利用する必要があります。
Redis: レプリケーション、HA、クラスターをサポート
Redisは、マスター/スレーブ型のレプリケーション機能を標準で備えています。また、Redis Sentinelという仕組みを使うことで、マスターノードの障害時に自動でフェイルオーバーを行う高可用性構成を組むことができます。さらに、Redis Clusterを利用すれば、データを複数のノードにシャーディング(分散)し、スケーラビリティと可用性を両立したクラスター構成を構築できます。
可用性・耐障害性の違い
可用性や耐障害性を重視する場合、Redisの方が組み込み機能で対応しやすく、有利と言えます。Memcachedで同等の構成を実現するには、より多くの工夫や外部依存が必要になります。
メモリ管理
Memcached: シンプルなLRU、マルチスレッド
Memcachedは、メモリが上限に達した場合、基本的にはLRU(Least Recently Used – 最も長い間使われていない)アルゴリズムに基づいて古いデータを削除します。内部的にマルチスレッドで動作するため、複数のCPUコアを効率的に利用し、高いスループットを実現できる可能性があります。メモリ効率が良いとされる場面もあります。
Redis: 多様な削除ポリシー、基本シングルスレッド
RedisもLRUをはじめ、LFU(Least Frequently Used – 最も使用頻度が低い)、TTL(Time To Live – 有効期限)に基づく削除など、より多くのデータ削除ポリシーを選択できます。Redisのコア処理は基本的にシングルスレッドで動作します(近年のバージョンではI/O処理などでマルチスレッド化が進んでいます)。これはアトミックな操作を保証しやすい反面、単一のコア性能に律速される可能性があります。ただし、非常に高速に動作するため、多くの場合問題になりません。
パフォーマンス特性の違い
CPUコア数が多い環境での単純なキー・バリューのGet/Set処理では、マルチスレッドのMemcachedが有利な場合もありますが、Redisも非常に高速です。複雑なデータ構造を扱う場合や、アトミックな操作が重要な場合はRedisのシングルスレッドモデルが有利に働くこともあります。
機能の豊富さ
Redis: 豊富な追加機能
Redisは、キャッシュ機能以外にもPub/Sub(メッセージング)、Luaスクリプティング(サーバーサイドでのカスタム処理)、トランザクション(複数コマンドのアトミック実行)、地理空間インデックスなど、多彩な機能を備えています。
Memcached: シンプルさに特化
Memcachedは、高速なキー・バリューストアとしての機能に特化しており、付加的な機能は多くありません。
パフォーマンス
一般的な見解とユースケースによる違い
非常にシンプルなキー・バリューの取得・設定(Get/Set)操作においては、マルチスレッドで動作するMemcachedの方が若干スループットが高い場合があるというベンチマーク結果もあります。しかし、Redisも極めて高速であり、その差が問題になるケースは限定的かもしれません。
むしろ、扱うデータ構造や実行するコマンドの種類によってパフォーマンスは大きく変わります。Redisの豊富なデータ型を活用した方が、アプリケーション側の処理を含めたトータルでのパフォーマンスが向上することも多々あります。
ユースケース別:どちらを選ぶべきか?
ここまでの比較を踏まえ、具体的なユースケースごとにどちらが適しているかの目安を示します。
シンプルなキャッシュ(DB負荷軽減、セッション管理など)
- Memcached: 最も得意とする分野です。セットアップや運用が比較的容易で、十分なパフォーマンスを発揮します。特に大量の単純なキー・バリューキャッシュが必要な場合に適しています。
- Redis: もちろんRedisでも全く問題なく、むしろより柔軟な削除ポリシーなどを活用できます。ただし、Memcachedで十分な場合は、そのシンプルさがメリットになることもあります。
多様なデータ構造が必要なキャッシュ(ランキング、レコメンデーションなど)
- Redis: ほぼ一択と言えるでしょう。ソート済みセットを使えばリアルタイムランキング、セットを使えば共通の友人やタグ付け、ハッシュを使えばオブジェクトキャッシュなどを効率的に実装できます。Memcachedでこれらを実現するのは困難です。
キャッシュ以外の用途(キュー、Pub/Sub、リアルタイム分析など)
- Redis: リスト型を使った簡易的なメッセージキュー、Pub/Sub機能によるリアルタイム通知、各種データ型を活用したカウンターや分析基盤など、キャッシュ以外の多様な用途に対応できます。Memcachedにはこれらの機能はありません。
データの永続性が必要な場合
- Redis: 永続化機能を持つRedisが必須となります。Memcachedはメモリ上のデータしか保持できません。
高可用性や分散構成が必要な場合
- Redis: レプリケーション、Sentinel、Clusterといった組み込み機能が充実しているRedisが有利です。Memcachedで高可用性を実現するには追加の仕組みが必要です。
まとめ
RedisとMemcached、どちらも優れたインメモリデータストアですが、その特性は異なります。
- Memcachedは、シンプルさ、速度、マルチスレッドに強みを持ち、大規模なキー・バリューキャッシュに特化した選択肢と言えます。
- Redisは、多様なデータ構造、永続化、レプリケーション、豊富な機能を武器に、キャッシュはもちろん、それ以外の幅広い用途にも対応できる非常に汎用性の高いデータストアです。
「結局どっちがいいの?」という問いに対する答えは、「あなたのアプリケーションの要件とユースケースによります」ということになります。
比較項目 | Memcached | Redis | どちらが有利か (傾向) |
データ構造 | シンプルなKVS (文字列) | 多様 (String, List, Set, ZSet, Hash…) | Redis |
永続化 | なし | あり (RDB, AOF) | Redis |
レプリケーション | 標準機能なし | あり (Master/Slave) | Redis |
高可用性 | 外部ツール必要 | あり (Sentinel, Cluster) | Redis |
メモリ効率 | 比較的良いとされる場合あり | データ構造による | ケースバイケース |
マルチスレッド | あり | 基本シングルスレッド (IO等はマルチ化) | Memcached |
機能豊富さ | シンプル | 豊富 (Pub/Sub, Lua, Geo…) | Redis |
単純KVS速度 | 高速 (若干有利な場合あり) | 非常に高速 | ケースバイケース |
得意な用途 | 大規模・単純キャッシュ | 複雑なキャッシュ、キャッシュ以外 (キュー, PubSub, データストア補助など) | Redis (汎用性) |
近年(2025年4月時点)では、Redisの機能拡張が活発であり、より多くのユースケースで採用される傾向が見られます。クラウドサービスでの提供も充実しています。しかし、Memcachedのシンプルさと実績も依然として魅力的です。
それぞれの強みと弱みを正しく理解し、解決したい課題や将来的な拡張性を見据えて、最適なツールを選択することが、パフォーマンスの高い、安定したシステムを構築するための鍵となります。