AIを「育てる」という新発想。Void Editorで実現する究極のパーソナライズ術

こんばんは!IT業界で働くアライグマです!

長年、PHP(Laravel)を使ったWebアプリケーション開発の現場で、私はずっと「自分にとって最高の道具とは何か?」を自問自答してきました。PhpStormやVSCodeのような高機能な統合開発環境(IDE)は、確かに強力な“万能ナイフ”です。しかし、時としてその多機能さが、思考の純度を下げてしまうように感じることがありました。本当に欲しい機能は、無数のメニューの奥深くに眠っているのです。

そんな中で私が出会ったのが、今回ご紹介する「Void Editor」です。これは、完成されたエディタをただ使うのではなく、VSCodeという最高の土台の上に、AIという名の知的生命体を、自分だけの最高の仕事仲間へと『育てる』という、全く新しい体験でした。

先日の記事で私が「AIを育てる」と表現したことに対し、「それは単にAPIモデルを切り替えているだけでは?」という、非常に的確なご指摘をいただきました。まさにおっしゃる通りで、私の説明が全く足りていませんでした。

この記事では、私がVoid EditorのAIを、いかにして「自分好み」に育てているのか、その本当の意味と具体的なカスタマイズ術について、今度こそ詳しくお話ししたいと思います。

「育てる」の土台:VSCodeの資産とAIの「基礎人格」設定

Void Editorを育てる旅は、巨人の肩の上から始まります。その巨人とは、もちろんVSCodeです。愛用しているテーマ、指に馴染んだキーバインド、日々の開発を支える無数の拡張機能たち。この豊かで安定した土壌があるからこそ、私たちは安心して、その上でAIという新しい植物を育てることに集中できるのです。

AIへの最初の「しつけ」:システムプロンプトの力

AIを育てる上で、最も基本的で、かつ効果的なのが「システムプロンプト」の設定です。これは、AIが常に従うべき、基本的な役割や性格を定義する、いわばAIにとっての「憲法」のようなものです。

APIモデル(例えばClaude 3.5 Sonnet)は、いわば「素の状態の優秀な新人」です。その新人に、「君の役割はこれだ。このルールを常に守って仕事をしてくれ」と明確な初期教育を施すのが、このシステムプロンプトなのです。

私が実際に設定しているシステムプロンプト例:

あなたは、Laravel 11と最新のJavaScript(ES2025)に精通した、非常に優秀なシニアWebエンジニアです。
私のメンターとして、常に最高のコード品質を追求してください。

回答の際は、以下のルールを必ず守ってください。
1.  コードは必ずPHP 8.3以上、またはES2025の記法で記述すること。
2.  専門用語を多用せず、日本語で、丁寧かつ論理的に解説すること。
3.  セキュリティの観点を常に意識し、脆弱性の可能性がある場合は必ず指摘すること。
4.  パフォーマンスが懸念されるコードについては、代替案を提示すること。

この設定を施すことで、私が対話するAIは、もはや汎用的なAIではありません。私の技術スタックを理解し、私が必要とする品質基準で応答してくれる、私専用の「シニアエンジニア」としての人格を持ち始めます。これこそが「育てる」ことの第一歩であり、単なるAPIの切り替えとは全く質の異なるカスタマイズです。

「育てる」の実践:対話を通じてAIの「文脈理解」を鍛える

次に重要なのが、日々の「対話」そのものを通じて、AIの文脈理解能力をその場その場で鍛え上げていくプロセスです。これは、AIをリアルタイムでプロジェクト専属のエキスパートへと教育していく作業に似ています。

先日、私が担当しているプロジェクトで、パフォーマンス改善が必要な箇所がありました。その時のAIとの対話が、この「鍛える」という感覚をよく表しています。

1. 私(最初の指示):

「Laravelで、アクティブなユーザー(status == 1)の一覧を取得するコードを書いて。」

2. AI:

(この時点では、User::where('status’, 1)->get(); という一般的なコードを提示)

3. 私(プロジェクトの文脈を追加):

「ありがとう。このプロジェクトでは、UserモデルにCompanyというリレーションが定義されています。このままだとN+1問題が発生するので、with()を使って企業情報も同時に取得するように書き換えてください。」

4. AI:

(User::with('company’)->where('status’, 1)->get(); という、より具体的なコードを提示)

5. 私(さらに具体化):

「完璧です。では、そのロジックをUserRepositoryクラスのgetActiveUsersWithCompany()というメソッドとして、クラス全体を書き直す形で実装してください。」

6. AI:

(指定されたクラスとメソッドの形で、リポジトリパターンの作法に沿った最終的なコードを提示)

この対話のプロセスを通じて、AIは私のプロジェクトの構造(CompanyリレーションやUserRepositoryの存在)をそのセッションの間、学習し続けます。 この対話の積み重ねが、AIを単なるコード生成機から、プロジェクトの文脈を深く理解した真のパートナーへと育て上げるのです。

「育てる」の最終形態:ローカルLLMで「魂」を吹き込む

そして、これが「AIを育てる」という言葉で私が本当に伝えたかった、究極の形です。それは、ローカルLLMをファインチューニング(追加学習)することで、世界に一つだけの「自分専用AI」を創り上げることです。

ローカルLLMの真価は、ただオフラインで使えることや、セキュリティが高いことだけではありません。自分だけのデータセットで、AIに「魂」を吹き込める点にあります。

私の究極の目標は、これまで手掛けてきた全てのLaravelプロジェクトのソースコード、チームのコーディング規約、そして全ての技術ドキュメントを学習データとして、オープンソースのCode Llamaモデルをファインチューニングすることです。そうして生まれた「私、〇〇(著者名)専用・Laravel特化モデル」は、もはや汎用AIではありません。私の思考の癖、設計の哲学、そしてチームの文化までもを完全に理解した、唯一無二の相棒です。これこそが、私が目指す「育てる」の最終形態です。

PjM視点:なぜこの「育てる」時間がチームの資産になるのか

プロジェクトマネージャーとしてチームを見ていると、一人の開発者がエディタのカスタマイズに時間を費やすことは、一見するとプロジェクトのタスクから外れた「寄り道」に見えるかもしれません。

しかし、私は全くそうは思いません。開発者が自分のツールを深く理解し、AIとの対話方法を洗練させ、ワークフローを自動化する。このプロセスを通じて得られた知見、例えば、チームの誰もが使えるように磨き上げられたシステムプロンプトや、特定の定型作業を自動化するカスタムコマンドは、単なる個人の生産性向上に留まらない、チーム全体で共有できる極めて価値の高い「資産」となるのです。

一人のメンバーによる「育てる」という投資が、チーム全体の生産性を底上げし、コードの品質を均質化させる。これこそが、PjMとして最も歓迎すべき状況です。

まとめ:「完成品」から「共進化する相棒」へ

Void Editorのカスタマイズとは、単に設定項目を変えることではありません。それは、AIという、まだ若く、しかし無限の可能性を秘めたパートナーを、対話を通じて自分だけの最高の仕事仲間に育て上げていく、壮大なプロセスです。

もはやエディタは、購入して使うだけの「完成品」ではありません。日々の対話を通じて私たちの意図を学び、私たちの手によってワークフローを最適化され、私たちと共に成長していく、「共進化する相棒」なのです。

私のVoid Editorは、今も毎日少しずつ、賢く、そして頼もしくなっています。この「育てる」楽しさと、その先にある圧倒的な生産性の向上を、ぜひあなたも体験してみてください。